昆虫は生物全体の中でも最も多様な形質を有する分類群であるものの,その繁殖システムは基本的には卵生である。卵生昆虫の場合は母体外に産み落とされた卵を親が世話することは稀であり,放置されることが多い。卵生が特殊化した卵胎生では,母体内で孵化した幼虫,あるいは孵化直前にまで胚発生が進行した卵が産下される。最も特殊化した繁殖システムである胎生は一部の昆虫類のみで知られる。胎生では卵内に十分な栄養物質が含まれておらず,親からの栄養供給が必須である。昨年度までの研究においては,フタバカゲロウの日本列島集団が胎生であること,本種の胎生は従来知られてきた胎生システムのいずれにも当てはまらないことを明らかにしてきた。また,胚発生過程において卵膜に特殊な構造が観察されることを光学顕微鏡下での観察から明らかにした他,胎生システムの獲得に伴い進化した可能性が高い,未受精卵の吸収についても明らかにした。 本年度は,この新規胎生システムの栄養供給に関して,重要な知見が得られた。これまでの研究から,胚発生過程を通じて卵膜に特殊な構造が形成されることを明らかにしてきた。この特殊な構造の詳細を究明するため,TEMによる超微細構造の観察を実施した。この観察により,胚発生過程を通じて卵膜に微絨毛が形成されること,卵巣から卵膜,そして胚へと電子密度の高い物質が輸送されていることが明らかとなった。 これまでの研究成果を通じ,フタバカゲロウにおける新規の胎生システムでは卵膜が重要な役割をしており,母体に蓄積された卵黄物質および脂質の供給を受けながら胚発生が進行していくことが示唆される。また,未受精卵の吸収が示唆されていることから,未受精卵に含まれる脂質を利用し,可能な限り効率的に栄養物質を利用することで高い発生率を有していることが考えられる。
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