尿路癌は尿路系で最も頻度の高いがんで、浸潤を起こしやすいという特徴がある。しかし、がんの悪性度や予後を示す有用なマーカーは現時点で見つかっていない。我々は、体液中の免疫複合体を一斉に解析する独自の手法により尿路癌、尿路感染症、尿路結石、健常人の尿中の免疫複合体を解析し、尿路癌のマーカーとして有用な免疫複合体抗原 (ceruloplasmin) を特定した。そこで本年度は、尿路癌の簡便な尿診断法 (ELISA法) の開発を目指し、①免疫複合体抗原のエピトープ特定法の構築に取り組んだ。また、尿路癌の病態解明を目的としてタンパク質の異常な翻訳後修飾に着目し、②免疫複合体抗原の異常な翻訳後修飾の解析に取り組んだ。 ①では、架橋質量分析法 (架橋剤を用いてタンパク質複合体を架橋し、酵素消化後の架橋ペプチドの質量を分析することでタンパク質の相互作用を解析する手法) を使って、あらかじめエピトープが分かっている抗原とその抗体により作製した免疫複合体から既知のエピトープを特定できるか検証実験を行った。その結果、既知のエピトープ近傍のペプチドを同定でき、本法がエピトープ特定法として有用であることが示された。現在、より精度高くエピトープを特定するために手法の最適化に取り組んでいる。今後は、構築したエピトープ特定法を用いてceruloplasmin のエピトープを特定し、診断法を開発する。 ②では、尿路癌の原因の1つとして報告される喫煙に着目し、タバコの煙に含まれる窒素酸化物によるタンパク質の異常な修飾 (ニトロ化) の有無を患者の尿中免疫複合体から調べた。その結果、患者の尿中の免疫複合体からニトロ化されたタンパク質は複数同定されたものの、喫煙群と非喫煙群で検出頻度やタンパク質の種類には差がなく、ニトロ化と喫煙の有無は関連がないことがわかった。今後は他の修飾についても調べていく。
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