研究課題/領域番号 |
19J13503
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊尾 紳吾 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 胎盤 / 栄養外胚葉 / 胎盤幹細胞 / 着床 / 受精卵 / 栄養膜細胞 / 発生 |
研究実績の概要 |
胎盤は妊娠の維持に重要なホルモン分泌、胎児と母体との間の栄養・ガス交換を担う、母児の健康に欠かすことができない臓器である。胎盤機能が不全状態に陥ると、流産、胎児発育不全や妊娠高血圧症候群に至り、胎児のみならず、母体にも深刻な影響を引き起こすことが知られている。しかし、これらの胎盤機能不全の発症機序は明らかにされておらず、胎盤機能不全の治療は進展していない。様々な妊娠合併症の発症機序を解明するためには、正常な胎盤の形成過程や機能の維持機構を分子レベルで理解することが極めて重要である。本研究では、胎盤の主要な機能を担う複数の細胞種に分化可能な胎盤幹細胞を樹立し、試験管内で分化過程を再現することを目的とした。プライム型ヒトiPS細胞(従来型)を、より初期の状態にリセットしたナイーブ型iPS細胞を用いて、胎盤の主要な機能を担う複数の細胞種に分化可能な胎盤幹細胞の作製を試みた。まず、ヒト着床前胚のsingle RNA sequencing dataとヒト胎盤のRNA sequencing dataを再解析することで、トロホブラスト(胎盤上皮細胞)の細胞系譜における遺伝子の変遷を確認し、今まで不明であった分化段階に特徴的な分子マーカーを複数同定した。分化段階に特徴的な細胞表面抗原を同定したことにより、胎盤幹細胞を生きたまま、効率よく単離することが可能となった。さらに、複数のサイトカインを用いることで、ヒトナイーブ型iPS細胞からトロホブラスト様細胞への誘導が可能で、かつ、長期間にわたって胎盤幹細胞として維持できることを明らかにした。臨床検体(胎盤)から胎盤幹細胞を樹立可能な細胞培養用培地が報告されていたが、本研究者は、以前よりもさらに適切な培地を開発し、これらが、ヒトナイーブ型iPS細胞と臨床検体である胎盤細胞のどちらに対しても応用できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヒト着床前胚のsingle RNA sequencing dataとヒト胎盤のRNA sequencing dataを再解析することで、トロホブラスト(胎盤上皮細胞)の細胞系譜における遺伝子の変遷を確認し、分化段階に特徴的な分子マーカーを複数同定した。細胞表面マーカーを同定出来たことで、栄養膜細胞を生きたまま、効率よく単離することが可能となった。複数のサイトカインを用いることで、ヒトナイーブ型iPS細胞からトロホブラスト様細胞への誘導する方法を確立した。また、この細胞は胎盤幹細胞へも分化させることが可能であった。樹立した細胞株や臨床検体のRNAシーケンスを行い、既報のRNA sequencing dataとの網羅的な遺伝子発現比較を行うことで、樹立した細胞株が胎盤細胞の各段階を模倣していることを示した。 次年度は、single cell RNA sequencingによる栄養外胚葉から細胞性栄養膜細胞への分化を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
single cell RNA sequencingによる栄養外胚葉から細胞性栄養膜細胞への分化を検討する。 非ヒト霊長類であるカニクイザル標本を用いて、着床期の栄養膜細胞の性質を検討する。 今回開発した胎盤幹細胞培地を用いて。妊娠初期絨毛組織から胎盤幹細胞を樹立する。
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