本研究では、基板の対称性によらずに成長することが示唆されている強磁性窒化鉄原子層を、他の基板に成長させて、①格子ひずみや②ジャロシンスキー守谷相互作用の観点から磁性原子層と基板との関係を原子スケールで明らかにすることを目指している。本年度は、新規窒化鉄磁性膜の作製条件並びに構造の解析を行うために、Ag(001)基板上での窒化鉄膜を新たに作製することを目指した。Ag基板上に窒化鉄原子層膜を作製できれば、これまで構造と磁性を報告してきたCu基板上の窒化鉄原子層の磁性に関する研究と比較することで、格子ひずみの観点から磁気特性とひずみの観点を解明できる。そこで初めに窒素吸着Ag(001)表面の表面構造解析を行った。窒素吸着面を作製する際のアニール温度を系統的に変化させていくと、規則構造をもった島ができることを走査トンネル顕微鏡(STM)で観察した。さらに低速電子線回折による表面構造解析によって、この窒素吸着Ag(001)表面はc(2x2)構造を持っていることがわかった。以上の結果から窒素吸着Ag(001)基板の表面構造モデルを推定した。 また本年は、フラストレートした系が形成することが期待される、三角格子窒化鉄原子層膜を、Cu(111)基板上に作製することを試みた。これまで、三角格子の窒化鉄原子層は、Cu(001)基板においてのみ報告されていたが、Cu(111)基板上に新規の三角格子窒化鉄原子層を作製する条件を見出した。この構造はCu(001)基板のものと同じ組成比をもったFeN原子層であり、Cu(001)基板の原子層膜よりも格子定数が大きいことをSTM観察により明らかにした。走査トンネル分光で局所電子状態を測定すると、Cu(001)基板上の三角格子の窒化鉄原子層と異なり、Cu(111)基板上では非占有準位にピークを観測し、基板の対称性による窒化鉄原子層の電子状態変調が観察された。
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