牡蠣のノロウイルス汚染においては、牡蠣が体内に有している糖鎖にノロウイルスが結合することが明らかになっている。一方で、我々の長年の研究により、養殖牡蠣のウイルス蓄積量には個体差がある可能性が示されている。牡蠣のウイルス蓄積に糖鎖が関与しているのであれば、ウイルス蓄積量に差があった牡蠣個体では、体内に発現している糖鎖の構造が異なっているという仮説を立てた。この仮説を実証するため、本研究では養殖牡蠣を人為的にノロウイルスに汚染させ、体内に蓄積されたノロウイルス量の個体差があるかどうか調査した。海水にノロウイルスGIおよびGIIを添加し、その海水中で養殖牡蠣20個体を3日間飼育した。飼育後海水から牡蠣を取り出し、各個体に蓄積されたノロウイルス量を明らかにした。ノロウイルスGIとGIIのどちらも、最もウイルス蓄積量の多い個体と少ない個体で1000倍以上の差があり、牡蠣のノロウイルス蓄積量は個体差が大きいことが示された。20個体のうちウイルス蓄積量の上位・下位3個体を選別し、それぞれの体内に存在する糖鎖の構造を、特定の糖鎖構造を認識して結合するレクチンという物質を用いた、レクチンアレイ解析によって明らかにした。ノロウイルスGIの蓄積量で選別した牡蠣では4種類、ノロウイルスGIIで選別した牡蠣では9種類のレクチンに認識される糖鎖量に差がみられ、実際に体内に発現している糖鎖の構造がウイルス蓄積量に関係している可能性が示唆された。
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