研究課題/領域番号 |
19J13608
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加茂 直己 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | タンパク質化学合成 / 有機金属触媒 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
2019年度ではルテニウム触媒を用いた新たなタンパク質化学合成法を開発し、その技術を活用することで翻訳後修飾入りリンカーヒストンH1.2の化学合成を達成した。 ヒストンH1.2はクロマチンの基本構成単位であるヌクレオソームと相互作用しクロマトソームを形成する。更にクロマチン構造を凝縮することで遺伝子転写不活性化に寄与すると考えられている。このタンパク質は212アミノ酸から構成されているため、H1.2を化学的に合成するには複数に分割されるH1.2のペプチド断片を効率的に連結する手法をとる必要があった。以前にパラジウム錯体を用いたペプチド断片ワンポット連結法を開発していたが、ペプチド連結反応条件に含まれる過剰量のチオール分子の存在下では量論比以上の金属錯体を要していた。この問題を解決するために、ルテニウム錯体に着目しスクリーニングを行ったところ、チオール過剰存在下においてもわずか5 mol%で目的の反応が進行することがわかり、パラジウム錯体に比べ50倍以上の触媒活性を示した。この金属錯体を用いて5つに分割されたH1.2のペプチド断片をワンポットで連結し、全長H1.2の化学合成を達成した。更に、53番目のアルギニンがシトルリン(R53Cit)に変換されたH1.2や、172番目のセリンリン酸化が導入されたH1.2の化学合成にも成功した。 次に、合成した修飾H1.2を用いてクロマトソーム形成効率を調べた。ゲルバンドシフトアッセイより、R53Citの修飾存在下でヌクレオソームに対する結合力が約30%低下することがわかった。この修飾は先行研究において分化状態の細胞がiPS細胞へと遷移する際に観察されており、クロマチンの脱凝縮に寄与していると考えられている。今回合成した均質的にR53Citが導入されたH1.2を用いて得られた結果は先行研究の結果を裏付けるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H1.2を化学合成する上で以前に開発したパラジウム錯体によるペプチド連結を当初考えていたが、パラジウム錯体に比べより高い活性を示すルテニウム錯体を発見し、新たな金属錯体をタンパク質化学合成法へと応用することができたため。更に、3種類のH1.2を迅速に合成し、in-vitroアッセイにより翻訳後修飾の機能解明まで行うことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
ヘテロクロマチン形成にはH1.2と同様に、ヒストンH3の9番目のトリメチル化リシンを認識するヘテロクロマチンプロテイン1α(HP1α)も大きく関与している。クロマチンのダイナミクスを理解する上でHP1α上の翻訳後修飾の機能解析も重要であるため、今回開発したルテニウム触媒を用いたワンポットペプチド連結法を用いて修飾入りHP1αを化学的に合成し、各修飾の機能を明らかにする。
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