研究課題/領域番号 |
19J13632
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 宏和 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ニュートリノ / ニュートリノ振動 / 非標準相互作用 / 超新星爆発 |
研究実績の概要 |
現在の素粒子物理学の標準理論にはニュートリノの小さな質量の起源や暗黒物質の正体などの未解決問題が数多く残されており、標準理論を超える物理の探索は喫緊の研究課題となっている。標準理論の枠組みでは説明のできない現象論的な有効ラグランジアンは非標準相互作用(Non Standard Interaction NSI)と呼ばれ、重力崩壊型超新星から放出されるニュートリノのスペクトルに影響を与えると示唆される。本研究計画ではNSIにより超新星内部のニュートリノ振動がどのように促進されるのか明らかにし、ニュートリノ観測への影響を調べる。 本年度は超新星内部で起こるニュートリノ集団振動がハイパーカミオカンデやJUNO、DUNEといった次世代ニュートリノ検出器での観測に与える影響を調べた。ニュートリノが大量に存在する爆発的天体現象ではニュートリノ同士の自己相互作用により、ニュートリノ集団振動が起こると理論的に示唆されている。ニュートリノ集団振動は標準理論の範囲内の現象であるにもかかわらず、その観測的証拠は未だに得られていない。NSIを検証する上でニュートリノ集団振動の観測への影響を調べることは不可欠である。親星の質量が軽くニュートリノ集団振動の寄与が見えやすい電子捕獲型超新星の爆発モデルを用いてポストプロセスとしてニュートリノ集団振動の数値計算を行い、ニュートリノ検出器での観測イベント数を見積もった。ハイパーカミオカンデとDUNEでの観測結果を組み合わせることで、ニュートリノの質量階層性によらず、爆発が10kpc以内で起こればニュートリノ集団振動の有無を観測で区別できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画ではニュートリノ振動の計算法を改良し、NSIの効果を数値計算コードに取り入れる予定であったが、標準理論の範囲内で起こるニュートリノ集団振動の観測への影響が未解明であったため、NSIの影響を調べるのに先立ちまずはニュートリノ集団振動の寄与を明らかにした。本年度の研究結果は軽い親星の爆発モデルでは内部コア反跳後にNSIの影響を観測で区別することが困難であることを示唆している。一方、内部コア反跳前や重い親星の爆発モデルを用いるとNSIの効果が見えやすくなると考えられる。本年度の研究はNSIを考慮していないものの、NSIの影響が見えやすくなる爆発モデルや爆発時期を示唆するものであり、今後の研究に大きな指針を与えた。以上から、(2)おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
標準理論の範囲内では物質効果によってニュートリノ集団振動が抑制される重い親星の爆発モデルに対して、NSIの効果がどのように見えるのか調べる。特に、爆発に失敗し、物質降着によって中心にブラックホールを形成するFailed supernovaeにおいてNSIの揺らぎがどのように非線形なニュートリノ集団振動を誘発するのか明らかにする。前年度の研究で用いられたニュートリノ振動の計算コードにNSIによる寄与を加える。これは物質効果のポテンシャルにNSI由来のポテンシャルを加えることにより実現する。数値計算により得られたニュートリノスペクトルからニュートリノ検出器での観測イベント数を見積もる。NSIを無視した場合と考慮した場合の観測イベント数を比較することにより、ニュートリノ観測でNSIを特徴づけるパラメータに強い制限を与えられるのか明らかにする。
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