研究課題
根元原理であるQCDへの理解を深めるために、重イオン衝突実験が盛んに行われている。その実験においては現在観測可能な宇宙における最強の磁場が発生していると理論的に予測されているが、その定量的観測には至っていない。本研究では申請者らが自ら発見したハドロニック・パッシェン・バック効果(以下HPBE)を用い、当該実験中での磁場を観測するための手法を提案するのが目的である。採用後の二年間においては磁場の時間依存性並びに電場の影響も考慮し、より実践的な観測手法を確立させる。重イオン衝突実験中の磁場は非常に速く減衰するため、実践的な観測手法の提案のためには時間変化する電磁場まで考慮する必要がある。観測で使用する粒子におけるHPBEが電磁場の時間変化によりどのような影響を受け、質量スペクトルや混合比、崩壊幅などの物理量がどのように変化するのかを明らかにする。学振採用以前においては、一様定磁場中でのチャーモニウムの特性を調べた。重イオン衝突において生じる磁場は非常に速く時間発展すると考えられており、より現実に即した観測のためにはこの時間変化をも考慮する必要がある。本年度は第一段階として磁場の時間変化に着目し、特に粒子間の混合比について精密に数値計算を行った。その結果、粒子間の混合比が磁場観測に役立つ可能性を発見した。具体的には、瞬間的だったり比較的弱い磁場であってもチャーモニウム粒子の混合比が、実験的に観測可能なレベルで変化する現象を発見した。
2: おおむね順調に進展している
当年度は計画通り、チャーモニウム粒子間の混合比の時間発展を計算した。当初はHPBEの影響に関し、時間変化と電場までを考慮して2年計画で成果を出す予定であった。しかし磁場のみの時間変化を考えて混合比を計算したところ、瞬間的に低減してしまう磁場を観測するに足る物理量の変化が見え、予定より早く論文が書けそうである。
本研究課題の今後の推進方策は以下である。4~5月 磁場のパラメータを変えて、S波チャーモニウムのS_z=0成分同士の混合比を網羅的に数値計算する。 6~7月 ランダウ準位でのみ混合するとされるS波チャーモニウムのS_z=±1成分の混合比を計算するコードを作成する。8~9月 上記の計算を、磁場パラメータを変えつつ行う。10~11月 自身の先行研究で計算したP波チャーモニウムの混合比を計算するコードを作成する。12~1月 上記の計算を、磁場パラメータを変えつつ行う。2~3月 結果をまとめ、論文を執筆する。以上の成果は、秋と春に予定される日本物理学会で発表する予定である。 また上記以外にも国際学会で二回程度研究成果を発表していく予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
AIP Conference Proceedings
巻: 2130 ページ: p.050001_1-8
10.1063/1.5118418