根元原理である量子色力学への理解を深めるべく、重イオン衝突実験が盛んに行われている。その実験においては現在観測可能な宇宙における最強の磁場が発生していると理論的に予測されているが、その定量的観測には至っていない。極限環境における物理の理解のため、磁場強度の観測手段が求められている。 磁場観測に向け、これまでの理論的研究では簡単のため強さが一定の磁場が考えられてきた。しかし磁場強度は実際には時間と共に連続的に変化するため、本研究ではその時間依存性を考慮した研究を行った。重イオン衝突実験中の磁場は持続時間が極度に短いため、その痕跡を捉えるのが非常に難しい。そこで申請者らは粒子の生存確率という量に注目した。重イオン衝突で生成された粒子は磁場により崩壊していき、磁場がなくなった際に残存している粒子の量を生存確率と呼ぶ。この生存確率は短時間の磁場の痕跡を捉えることを申請者らは発見した。重イオン衝突では様々な状態の粒子が生成されるため、申請者らは種々の初期状態を用意し、生存確率の数値計算を行った。その結果、生存確率は生成された瞬間の量子力学的状態に大きく依存することが明らかとなった。このような状況下でも磁場の大きさを捉えるため、ある状態たちの生存確率の和を取ることを提案した。これにより初期状態の依存性をほぼ消すことに成功し、更にその生存確率の和が磁場のパラメタを用いて近似的に書けることを示した。この成果は論文として投稿中である。
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