研究課題/領域番号 |
19J13657
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
福島 綾介 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 蛍光画像解析 / 濃度定量 / 多量体内分子数推定 / ベイズ推定 |
研究実績の概要 |
神経変性疾患の原因として、生細胞内の凝集性タンパク質が集積し形成される多量体や凝集体が毒性を発揮することが推定されているが、生細胞内で凝集体に含まれるタンパク質の分子数とその分布を解析する手法は存在しない。 本研究では、複数枚の蛍光画像に対する統計的解析によって、粒子数と一粒子輝度の推定を行う解析手法の開発を行う。粒子数は標的分子の濃度を反映するパラメーターである。一方、一粒子輝度は一粒子当たりの蛍光の明るさを意味し、標的分子の多量体の形成や凝集によって上昇するパラメーターである。つまり、一粒子輝度の推定により細胞内の多量体や凝集体の形成を逐次観測することが可能である。 本研究では従来法であるNumber and Brightness Analysisの高精度化と多成分系への応用を目指す。従来法はその解析精度の低さから、単一の一粒子輝度をもつ1成分系のみの解析に用いられることが多いが、凝集の形成過程では様々な一粒子輝度をもつ分子が複数現れるような多成分系であると考えられる。 現在までの進捗として、ベイズ推定に基づく解析法の開発によって1成分系に対する推定精度を飛躍的に向上させることに成功した。今後はさらなる高精度化の検討と多成分系への解析に取り組む。 本研究で開発する手法はバイオイメージングの幅広い分野で活用可能であり、濃度の変化や多量体の形成を明らかにする。これは細胞内における動的な分子機構を明らかにする上で重要な知見をもたらす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに大きく分けて2つの成果を上げることができた。一方で、当初の目的である多成分系への解析は未だ達成できていないため区分(2)とする。 1つ目の成果は、従来法において定量的な一粒子輝度を得るために必要な条件を明らかにしたことである。従来法で解析を行う際には解析に用いる蛍光画像枚数を決定する必要がある。しかし、どのくらいの枚数が良いのか不明確であった。一粒子輝度の期待値に対してテイラー展開を用いることで、画像枚数が不十分なときには蛍光強度依存的に一粒子輝度を下に見積もることを解析的に明らかにした。従来法を用いた解析において時間分解能を向上させるために、画像枚数を数百枚程度に設定し解析が行われる場合があるが、この結果からそのような解析は避けるべきであることがわかる。従来法を用いた解析において重要な知見を得ることができた。 2つ目の成果は、ベイズ推定に基づく新規解析手法によって推定精度が飛躍的に向上したことである。蛍光タンパク質を用いた弱励起光、短時間の測定条件下で、従来法は粒子数の定量的な推定が不可能であり、濃度を見積もることができなかった。従来法の推定結果は大きな外れ値を頻繁に返すため、多数のピクセルの平均値を計算しても収束しなかった。しかし、新規解析手法は定量的な推定が可能であることがシミュレーションと実験から明らかになった。この手法では画像中の近傍ピクセルにおける粒子数の推定値同士が似た値を取るという緩やかな拘束をかけることで高精度化を達成した。この手法は複数枚の蛍光画像の取得から、標的タンパク質の濃度の見積もりを可能にするため、細胞内の動的な分子機構を明らかにすることに貢献できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにベイズ推定を用いることで推定精度の大幅な改善を達成した。これは画像中の近傍ピクセルにおける粒子数の推定値に対して拘束をかけることで達成できた。次に、同様の拘束を一粒子輝度に対しても課すことを検討する。制約条件をさらに課すことで精度の向上が期待できる。一方で、この手法の実行には数百から数千回の二重数値積分を必要とするため、解析時間の劇的に増大することが想定される。解析時間を短縮するために専用の数値積分用関数を導出する。 以上のようにして、1成分系への解析精度の向上と解析時間の短縮に取り組んだのち、2成分系への解析法を確立する。この解析法では一粒子輝度既知の2種の成分が混合しており、それぞれの濃度は未知であるような状況を仮定する。従来法を用いた解析では、現実的に再現可能な条件下では定量的な解析はできないことがシミュレーションから明らかになっているが、飛躍的に解析精度が改善した新規手法であれば期待できる。仮に解析が困難であった場合はシミュレーションを通じて解析精度が改善することが予測される条件はないか検討を行う。また、近傍ピクセル間の拘束を決める選択基準として現在は周辺尤度最大化を用いているが、他の基準としてWAIC (Widely applicable information criterion)の利用も検討する。できる限り近傍ピクセル間の拘束を大きくできるような選択基準であれば、精度は改善することが期待できる。
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