2021年4月から6月まで「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特別研究員の採用期間の取扱いについて」に記載されている採用期間の延長を行い、主に学位論文の執筆等の研究成果取りまとめに専念した。本報告書では前述の期間中に取りまとめた2019年度と2020年度の研究成果を簡潔に報告する。 本研究目的は、生細胞内でタンパク質のオリゴマー形成や凝集形成の初期過程の観測が可能な方法の開発である。タンパク質のオリゴマー形成や凝集形成は細胞内シグナル伝達や神経変性疾患と密接に関連し、生細胞内における観測と評価によって、細胞内分子機構に関して新たな知見を提供できる。本研究では最尤推定とベイズ推定を応用した方法の確立、そして、その方法の実証実験を行った。 ベイズ推定では、経験ベイズ法を用いて画像中の近傍ピクセルの情報を学習し活用する解析法を確立した。蛍光画像には光の回折限界に由来するボケがあり、隣接するピクセル間で急激な蛍光強度の変化は緩和されるという特徴を活用した。 実証実験では、緑色蛍光タンパク質(EGFP)溶液とEGFPを発現するHeLa細胞を用いて、本解析手法の妥当性を検証した。その溶液と細胞実験の結果から、パラメーターの推定精度は従来法と比較して10倍の精度となった。さらに、EGFPタンデム結合型二量体と三量体の測定結果から、1分子内に含まれる EGFPの数の変化がパラメーターの変化として反映されることを示した。これらの成果は論文としてBiophysical Journalに投稿し受理された(2021年3月)。 本研究で開発した手法は、生細胞の蛍光画像の解析からタンパク質のオリゴマー形成を生細胞内で評価できる手法である。オリゴマー形成の評価は単純な蛍光画像の観察からでは評価困難であるが、本手法によって 細胞内の機能制御に関連した新たな知見を得ることができる。
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