テンジクダイ科魚類について琉球列島を中心とした採集調査を行い,本科の主要な分類群を網羅した側線系に関するデータを構築した.特に系統的位置が不確かであったクダリボウズギスモドキ属については,本属魚類の胴部腹側に追加的な側線系が形成されていることをDiASP生体染色によって示し,この特徴と分子系統解析の結果から本属はヌメリテンジクダイ属に近縁と結論づけた.また,文献調査と標本観察に基づき,クダリボウズギスモドキ属の一種にみられた痕跡的な側線鱗が本属他種にも存在することを示し,本研究で用いた種が属の特徴をよく備えることを示した. 幼形的な外観をもつクダリボウズギスモドキ属の一種における側線管の複雑性と表在感丘の分布パターンは,ヌメリテンジクダイの幼魚時におけるそれらとよく類似していたことから,クダリボウズギスモドキ属にみられるシンプルな側線系は,ヌメリテンジクダイにみられる側線系の個体発達が中断されたペドモフル的状態であると明らかにした.すなわち,それら2属間における側線系全体の形態的差異は,体全体の異時的な差異の一部であると考えられる. コモリウオの体表を電子顕微鏡で観察したところ,前後方向にのびる感丘列と,背腹方向にのびる感丘列が,交差しつつもそれぞれほぼ等間隔に並ぶことで,無数の表在感丘が網目状の配置されていた.感覚毛の配置に基づき表在感丘の感受方向性を調べたところ,前後方向にのびる感丘列は背腹方向の水流を感受でき,背腹方向にのびる感丘列は前後方向の水流を感受できると示唆された.したがって,コモリウオにみられる感丘の配置には,水流の前後・背腹方向成分の両方を体表全面で一様に感受できるという機能的意義があると示唆された.
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