水熱合成法により半導体ナノ粒子を作製した。その際、長さが約0.5 nmと非常に短いN-アセチル-L-システイン(NAC)を配位子として用いた。さらに、NACが有するNH基とCOOH基間で生じる化学結合を利用してナノ粒子同士が近接した超格子構造を作製した。 ナノ粒子がランダムに分散した溶液試料と超格子構造の光吸収スペクトルを測定した。溶液試料に比べて、超格子構造の吸収ピークが低エネルギー側にシフトする振る舞いが観測された。これは、近接したナノ粒子間で波動関数が結合し、より安定な電子状態が形成されたことを反映している。 同様の試料について、発光励起(PLE)スペクトルの受光エネルギー依存性を測定した。溶液試料ではサイズ分布がある中で、受光エネルギーに対応するサイズの信号が選択的に検出されるため、受光エネルギーによってPLEピークがシフトする。対して、超格子構造では受光エネルギーを変えてもPLEピークはシフトしない。これは、異なる受光エネルギーでも同一の励起状態からの発光が検出されていることを反映している。すなわち、電子状態が拡張したミニバンドの形成が示された。 このようなナノ粒子超格子構造の発光メカニズムを解明するために、光学特性の温度依存性を系統的に調べた。吸収ピークと発光ピークの差で定義されるストークスシフトに着目すると、温度上昇に伴いストークスシフトが小さくなる振る舞いが観測された。また、発光減衰プロファイルの受光エネルギー依存性を調べた結果、高エネルギー側で受光するほど発光減衰プロファイルが速い減衰を示すことがわかった。さらに、温度上昇に伴い発光減衰プロファイルの受光エネルギー依存性が小さくなる振る舞いを観測した。これらの実験結果について、励起子の拡張状態および弱局在状態を考慮したモデルに基づき解析を行うことで、ナノ粒子超格子構造の発光メカニズムを初めて実験的に明らかにした。
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