研究課題/領域番号 |
19J13698
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤井 啓資 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 冷却原子気体 / 輸送現象 / 非平衡物理 / 流体力学 |
研究実績の概要 |
冷却原子系は,実験的に幅広く系を制御できるという特徴を持つ.例えば,トラップする原子の種類を変えることで量子統計性を選択でき,フェッシュバッハ共鳴により原子間相互作用の強さを変調できる.特に,相互作用の強さが可変であるという特徴は,冷却原子系独自の強みであり,BCS-BECクロスオーバーのような新奇現象の実現を含め量子多体系のシミュレータとして強相関系の理解を推し進めてきた.本研究においても,このBCS-BECクロスオーバーを実現する強相関フェルミ気体に注目し,この系を記述する低エネルギー有効理論のひとつである流体力学に関して研究を行った. 初年度の研究課題であった「共形不変性と一般座標変換不変性に基づいた流体力学の構築」及び「冷却原子系における輸送係数の測定への応用」は完全に達成した.具体的には,相互作用を特徴付ける結合定数を人為的に変換する外場と見做すことで,理論に仮想的な共形不変性を持たせ,この共形不変性との一貫性を課して流体力学を構築した.そして,構築した流体力学を,散乱長を介して結合定数を実際に変調可能な冷却原子系へと応用した.当初の推測通り,流体の密度を固定して散乱長を伸縮することと,一定の散乱長の下での流体の膨張収縮が等価であることを示した.この等価性の帰結として,流体の膨張収縮に伴う体積粘性の散逸を散乱長の伸縮で引き起こせることを明らかにした.さらにこの応用として,散乱長を自在に制御できるという冷却原子系の利点と合わせて,体積粘性の新たな測定手法を提案した. また,この体積粘性に関する研究成果をもとに輸送係数の計算手法についての研究を進めた.強結合領域においても定量的に信頼できる計算手法として,フガシティを展開パラメータとする計算手法を深化させ,久保公式を精査することで,体積粘性係数を分子状態が生じるBEC領域においても信頼できる形で評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の年次計画通り,2つの研究題目「共形不変性と一般座標変換不変性に基づいた流体力学の構築」及び「冷却原子系における輸送係数の測定への応用」を達成済みである.さらに,その応用として輸送係数の計算といった研究も遂行中であり,当初の計画以上に進展していると言える. また,次年度に予定している研究課題である「場の量子論に基づく流体力学の定式化」に向け,非平衡系に関する研究として,以下の2つの研究に取り組んだ.1つ目に,非平衡開放系における自発的対称性の破れと低エネルギー有効理論についての研究を行った.開放系特有の対称性の破れに伴って現れる(散逸的な)ギャップレスモードの有効理論に関する研究を進め,時空対称性が自発的に破れた場合に,内部対称性の破れの場合とは異なる分散関係が現れることを見出した.2つ目として,時間周期的な外場を印加した古典マスター方程式系を舞台に,そのカレントや揺らぎの定理に関して研究を行った.これら2つの研究は,当初の計画にはないものであるが、非平衡系の物理の基礎となる重要な成果である.特に,次年度の研究題目「場の量子論に基づく流体力学の定式化」を遂行する上で,非平衡系を理論的に取り扱う手法に習熟しておくことは重要であり,次年度の研究も含め今後の発展が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,当初予定していた研究課題「流体力学の場の量子論的な定式化」に基づき,強相関フェルミ気体の非平衡特性の探求を目的として研究を進める.具体的には,前年度に行った研究に引き続き,次の2つの研究を遂行する.(i)フガシティ展開に基づく輸送係数の計算手法の深化と応用.(ii)非平衡系における低エネルギー有効理論の構築と応用.研究(i)は,流体力学に現れる輸送係数を微視的な理論から決定することを目指すものであり,研究(ii)は冷却原子系において,流体力学を含む非平衡系に対する低エネルギー有効理論を確立し,その解析から普遍的性質の解明を目指すものである.
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