研究課題/領域番号 |
19J13840
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森崎 宗一郎 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 重力波 / 中性子星 |
研究実績の概要 |
まず、申請書の計画にある通り、パラメター推定の自動化を行った。イベントの検出時に得られる情報から、各パラメターのプライアーの設定や、用いるべき波形を決定するアルゴリズムを開発した。また、パラメター推定のジョブを自動追跡する機能や、パラメター推定後に自動で結果をアップロードする機能なども実装した。以上の機能を、イベントの自動フォローアップ用ソフトウェアGWCeleryに実装した。この自動パラメター推定の機能は、2019 年4 月から始まったLIGO-Virgo の観測(O3)にて用いられた。 次に、連星中性子星イベントのパラメター推定の高速化に取り組んだ。まず、連星中性子星重力波のフィッシャー行列から、最も高い精度で測定できるパラメターの組み合わせを2つ見出した。そして、検出時に得られるそれらの点推定の値から、パラメター推定で探索しないといけないパラメター空間を劇的に縮小する手法を開発した。この手法を、ライクリフッドの計算を高速化する手法であるReduced order quadrature (ROQ)と組み合わせ、Focused ROQ という新たな高速化手法を開発した。この新手法により連星中性子星のパラメター推定を一万倍程度高速化できることを示した。 また、Focused ROQ の性能は試すため、LIGO-Virgo の第二次観測(O2)のデータに人工的に連星中性子星の重力波を注入し、Focused ROQ を用いたパラメター推定を行って、どのような結果が得られるかを調べた。その結果、パラメター推定の結果をバイアスすることなく、数週間程度のパラメター推定の計算時間を、約10 分程度に短縮できることがわかった。特にこれにより、検出後数十分以内にイベントの正確な位置を電磁波追観測グループに伝えることが可能となる。現在は、この研究結果を出版論文にまとめている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの目標は、パラメター推定の自動化、及び、検出パイプラインからの情報とReduced Order Quadratureを組み合わせることによるパラメター推定の高速化であった。以上を達成したため、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、この手法の中性子星ブラックホール連星や、連星ブラックホールへの拡張が考えられる。このような重い連星では、合体や合体後のブラックホールの固有振動による信号が検出器の感度帯に入ってくるため、この影響を考慮しないといけない。また、軌道面の歳差運動や、重力波の高次モードも現時点では考慮していないため、これらの効果を取り入れる拡張も考えられる。 また、現時点では、一連のパラメター推定において1つのROQ basis setを用いているが、複数のROQ basis setを用いることでより高速化することができると考えられる。このような更なる最適化も、今後の研究の方向として考えられる。 この手法を用いて、過去に検出されたイベントGW170817、GW190425の再解析を行うことも興味深い。LIGO-Virgoは計算コストを削減するために一部のデータを捨てているが、本研究で開発した高速化手法を用いることで、データを捨てずに解析することが可能となる。これにより、パラメター推定の改善できる可能性がある。
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