研究課題/領域番号 |
19J13870
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齋藤 慧 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ダイニン / ダイナクチン / タンパク質構造変化 |
研究実績の概要 |
本研究は,ダイナクチンによるダイニンの運動制御機構の解明を目的として行っている。当該年度は,ダイナクチン内部での分子内相互作用の詳細について,大きな進展があった。第一に,研究実施計画の冒頭に記した,電子顕微鏡画像の単粒子解析による,「ダイナクチンのコンフォメーションを客観的に分類し,各コンフォメーションの出現頻度や平均像を得る」ことを目指した研究を実施した。コンフォメーションが大きく3つに分類されて,それらが平衡関係にあること、また出現頻度は溶液条件により変化すること,などを示すことができた。これにより,ダイナクチン複合体全体の構造変化について客観的な記述をすることができ,さらに,これまでの研究員自身あるいは先行研究のダイナクチン構造についての知見を統合するモデルを提唱するに至った。これらの構造変化はダイニンや微小管との結合制御に関連する可能性があり微小管系ネットワークの相互作用について重要な示唆を与える。第二に,原子間力顕微鏡によるダイナクチン1分子のダイナミクスの観察を進め(共同研究),ダイニン結合部位や微小管結合部位の結合解離の詳細を調べた。これらの構造変化の観察も,ダイナクチンの機能に直接関係するものと期待される成果である。上記2点の結果から,ダイナクチンが複合体内部の複数箇所で可逆的に分子内相互作用をしているという,複合体構造の全体と部分の関係についての新しい描像を得ることができた。これらの成果を国内外の学会で発表し,論文が受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画通りに電子顕微鏡画像の単粒子解析を進めた。その結果,当初予期していた以上の成果があった。単粒子解析による全画像の分類・アラインメントと一分子毎の画像の評価を組み合わせることで,従来の方法では捉えがたかったダイナクチンの構造多型性に正面から取り組むことができた。この手法により,研究員自身のこれまでの観察結果をより客観的に提示することができ,さらに,他グループによる報告とのあいだにあったダイナクチンのサイドアーム部分についての(見かけ上の)不一致を説明することが可能になった。最終的には両者を統合した理解に至り,包括的な構造モデルを提案した。また,ダイナクチンの構造変化についての理解も進み,収縮したコンフォメーションと伸長したコンフォメーションのあいだの平衡を決める重要な要素(溶液条件など)を同定するなど,当初予定していなかった方向への進展があった。これらのコンフォメーション変化はダイニン運動機能の制御やダイナクチンの種々のタンパク質との結合に関与している可能性があるが,当該年度の研究ではそれらを探索するには至らなかった。今後の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られたダイナクチンの構造変化に関する知見にもとづき,ダイナクチンによるダイニン運動制御の分子機構を調べる。特にp150のコイルドコイル1(CC1)領域はダイニン結合部位として知られており,当研究室でダイニン微小管結合を阻害する効果が確認できているが,その構造的根拠は明らかでない。全反射顕微鏡法によるダイニン一分子の微小管結合観察と,ダイニンの複合体の電子顕微鏡観察を組み合わせて,p150 CC1を添加した際の機能・構造両面の効果を検証していく。大量のデータを効率的に処理する必要があるため,画像解析の環境をソフトウェアとハードウェアの双方で改善する。 さらに,ダイナクチンの構造の動的な変化を捉えるため,原子間力顕微鏡による観察を進める。これまでに一分子電子顕微鏡観察で得られた知見を元にダイナクチンの各部位を同定し,形態の時間変化の詳細を記述する方法の確立を目指す。現在作製中の欠損変異体を完成させ,ダイナクチン複合体の構造やダイナミクスへの影響を検証する。これらにより一分子電子顕微鏡観察やクライオ電子顕微鏡法では捉えきれなかった構造特性を明らかにできると期待する。
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