研究課題/領域番号 |
19J13923
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 惇志 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | リポソーム / マイクロドメイン / アルコール / 麻酔作用 / 毒性 / 出芽酵母 / 脂質 |
研究実績の概要 |
麻酔薬の作用機構は未解明である。本研究は、麻酔薬が脂質と相互作用し、物理的な性質を変えることで麻酔作用を引き起こすという仮説のもと、麻酔薬による生体膜の物理的な変化と、それに起因した酵母細胞における生理学的な変化を明らかにすることを目的とする。本年度は、人工膜小胞の一種である巨大一枚膜小胞(GUV)を用いた麻酔薬作用評価系の確立(項目1)、およびアルコールの酵母生細胞に対する毒性の評価(項目2)を中心に研究を行った。 項目1ではまず、gentle hydration法によってGUVを形成させる実験系を立ち上げた。主成分として2種類の異なるリン脂質(DSPC、DOPC)およびコレステロールを含む3成分の割合を自在に制御したGUVを作製し、先行研究と同様に、これら成分の割合によって物理的な相状態が変化する様子を確認した。生体膜では秩序性の異なるマイクロドメインが共存しており、特定の組成を用いることで、GUVでこのマイクロドメイン形成を再現できる。このような脂質組成のGUVに対して、麻酔濃度に近いアルコールを含む水溶液中で小胞形成させたときには、相分離が起こらず単一相のGUVが高い割合で得られた。したがって、アルコールが脂質のみの膜に作用し、マイクロドメイン形成を阻害することがわかった。 項目2ではまず、酵母細胞の生存率を迅速・簡便に測定する方法の開発を試みた。メチレンブルーが生細胞よりも死細胞によく吸着されることを利用して、酵母細胞集団の生存率を簡便に測定できることを明らかにした。この方法を用いて各鎖長のアルコールによる毒性を定量化し、以前に報告した増殖阻害濃度に近い濃度で毒性も示すことが新たにわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工膜小胞を用いた実験系を自作で構築し、脂質組成を自在に制御した小胞を得ることが可能となった。本実験系を用いることで、アルコールがマイクロドメインを崩壊させる作用を持つことがわかり、今後の研究の大きな足がかりとなる。また、メチレンブルーを用いた、酵母細胞生存率の迅速な評価法も構築でき、現在論文投稿準備中である。全体として、成果の発表には至らなかったものの、次年度に研究を進める準備は十分に整った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立した人工膜小胞の実験系を用いて、アルコールの濃度とドメイン崩壊の関係を明らかにし、作用―濃度曲線を描く。これを、脂質組成の異なる人工膜と比較し、脂質組成―アルコール感受性の関係を明らかにする。 併行して、細胞死の起こらないアルコール濃度において、膜マイクロドメインによる局在制御が示唆される膜タンパク質の局在を観察し、アルコールが生細胞の膜ドメイン形成を阻害するかを検証する。
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