本研究の目的は,眼球運動軌跡の画像に対して画像処理技法を適用することで得られる,視線パターンの指標が意思決定過程のどのような認知処理を反映しているのかを検討するための理論的な枠組みとなる計量モデルを構築することである。2019年度と2020年度の2年間でモデルの構築及び検証のために実験室実験二回と実地調査一回を行うことを予定していた。 2020年度は,主に2019年度に行った実験のデータについて再分析を実施した。なお,実験室実験も一回行った。主な研究成果として,社会心理学会および感性工学会で学会発表を行った。どちらの学会発表においても2019年度の実験データを用いたが,それぞれで別の観点から再分析し,その結果を報告した。社会心理学会の学会発表では,四つの選択肢の中から一つを選ぶ際の眼球運動について,眼球運動軌跡の画像を作成し,主にテクスチャー解析などの画像解析技法により,視線のパターンを示す指標を求めた。そして,求めた指標(以降,視線の画像解析指標)と意思決定過程および決定後における心理状態に関する項目(以降,心理状態の質問項目)との関係について,共分散構造分析によりモデルを構築し検討した。具体的には,視線の画像解析指標と心理状態の質問項目それぞれ2因子かつ相関があることを仮定したモデルを作成した。これにより,特定の視線のパターンと意思決定における心理状態との関係を表すことを試みた。また,感性工学会の学会発表では,画像化した眼球運動に対して非負値行列因子分解(Non-negative Matrix Factorization; NMF)による次元縮約により眼球運動のパターンを抽出し,心理状態の質問項目との関係について検討する手法を提案した。そして,提案手法の適用例として,2019年度に実施した実験のデータを用い,視線のパターンと意思決定における心理状態との関係を検討した。
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