研究課題/領域番号 |
19J13955
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 文博 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ポアンカレ / トポロジー / スキルミオン / 偏光 / 光渦 / ナノフォトニクス |
研究実績の概要 |
本研究は、微小な光共振器を用いて全偏光状態をビーム断面に含有するフルポアンカレビームの生成を目指すものである。フルポアンカレビームは通常の光ビームにはない空間的に非一様な偏光分布を有することから、その特異な偏光分布を応用した光トラップやレーザー加工、光センシング等が期待されている。また、スキルミオンと呼ばれるトポロジカル状態を有することも知られており、物質へのトポロジカル状態転写等、物性物理学分野への応用も期待される。一方、現在知れている同ビームの生成手法はバルクの光学素子を利用したものに限られ、系自体の大きさ等の制限により応用先が限られる。本研究では微小な光共振器というよりコンパクトな手法により同ビームの生成し、センシング等より幅広い領域へ同ビームの応用先を広げるものである。 本研究の実施一年度目では、微小光リング共振器上に2重の回折格子を設けることでフルポアンカレビームが生成されることを電磁界計算により確認し、微小光共振器による同ビームの生成手法を世界で初めて提案した。また、回折格子の回折周期を制御することで、任意スキルミオン数(トポロジカル特徴を表す数)のビームが得られることも見出した。さらに、シリコンを材料として同デバイスを設計し、基礎となる作製技術も開発した。本研究の目標である同ビームの生成観測へ向けて着実に研究が進展している。 また、当初の計画に加え、本提案手法はフルポアンカレビームに限らず任意の高次偏光状態を生成するプラットフォームとして機能すること、生成ビームの強度分布がベッセル関数となり、非回折性や自己修復性を示す可能性がある等、本研究の提案時には想定していなかった発見もあった。二年度目では元々の計画に加え、これら副次的発見に関する掘り下げを行うことも視野に入れる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、微小光共振器を用いたフルポアンカレビームのオンチップ生成手法を世界で初めて提案した。また、同手法を拡張することで同ビームのトポロジカルな特徴を示すスキルミオン数を制御できることを見出し、任意のスキルミオン数を有するフルポアンカレビームが生成可能であることを示した。これらの成果は、フルポアンカレビームの応用範囲を一層広げると共に光科学、特にトポロジカル光波科学の分野の発展に貢献し得るものであると確信している。得られた成果の一部は光・フォトニクス分野のトップ国際会議の一つであるCLEOにおいて口頭で発表しているほか、論文誌への投稿準備も進めている。現在、本研究は提案デバイスの作製に移行し、基礎となる作製技術の開発にも成功している。 以上のとおり、本研究は申請時にはアイデア段階であった構想を具現化し十分な成果を挙げており、期待通りの進展が得られていると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
二年度目では、当初の計画通り提案手法を実現するデバイスを作製し、微小光共振器によるフルポアンカレビーム生成の観測を目標とする。さらに、同目標が達成された暁には、光利得媒体の導入により提案構造自体がレーザ発振する光スキルミオンレーザの実現へ向けた検討を行う。 同時に、本研究の実施中に得られた副次的発見である生成ビームのベッセル関数状強度分布に関してさらなる解析を行い、自己修復性の有無に関する調査を行いたいと考える。本手法により生成されたビームが自己修復性という機能性を有することを示せた場合、本研究のインパクトがより一層高まることが期待される。
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