研究実績の概要 |
トポロジカル絶縁体(Topological Insulator, TI)は、狭いバンドギャップ(200-300 meV)を持ち、ギャップ間に表面に局在した電子状態が現れる。この表面電子は通常の物質とスピン偏極状態が大きく異なり、スピン流を非常に高効率に生成することができる。そのためスピントロニクスデバイス素子(MRAM)への応用が期待されている。工業応用上電流-スピン変換効率が最大となるTI材料開発が必要となるが、現状のTIはバルク絶縁性が低く、所望の表面伝導パスだけでなくバルク伝導パスが常に共存する。したがってスピン変換効率が低減してしまっている。本研究はTIの一種とされているPb(Bi,Sb)2(Te,Se)4のバルク絶縁体化および表面電子物性の評価を行った。 一般にバルク絶縁性を向上させるために最も重要なパラメーターはバンドギャップの大きさである。近年、PbBi2(Te,Se)4 TIにおいて、もしSe原子が特有の結晶サイトにオーダリング配置されればバンドギャップが飛躍的に向上するとの予測がなされた。これをうけて本研究ではPbBi2(Te,Se)4におけるSe原子の占有位置の決定を走査型透過電子顕微鏡を用いて行った。この結果、Se原子は可能な占有サイトのうち、バンドギャップを最大とするinnerサイトにオーダリングしていることがわかった。 つづいてバルク絶縁体化を行ったPb(Bi,Sb)2Te4が、実際にTIであるか否かについてSTMによる実験を行った。この結果、二次元電子状態が存在し完全後方散乱が禁止されていること、電子状態は線形な分散関係をもつことが明らかになった。これらの結果からPbSb2Te4は表面状態をもち、TIであると結論付けることが可能となった。さらにTI表面状態での散乱は通常の弾性散乱ではなく、スピン軌道散乱が支配的であることが分かった。この現象はスピンホール効果や異常ホール効果・弱半局在などの物理と密接に関係し、次世代スピントロニクスデバイスを創成する上で重要な知見となる。
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