研究課題/領域番号 |
19J14010
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿山 将 東京大学, 大学院薬学系研究科 (薬学部), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ヒト iPS ニューロン / 再生医療 / 場所細胞 / 海馬 / 電気生理学 |
研究実績の概要 |
脳内の神経細胞は、一度欠損すると、基本的には再生しない。そのため、神経変性疾患の根本的な治療は、現在のところ困難である。この問題を解決するため、特にパーキンソン病治療の目的で、ヒト人工多能性幹細胞由来の神経細胞 (iPSニューロン)の移植研究が行われている (Kikuchi et al., 2017)。この論文では、ドパミン作動性のヒトiPSニューロンを移植することで、パーキンソン病モデル動物の症状が改善することを示している。そして、海馬にヒトiPSニューロンを移植した研究では、移植先のニューロンとヒトiPSニューロンとの間にシナプスが形成されることが、in vitro の実験で示唆されている (Avaliani et al., 2014)。これらの知見から、移植したヒトiPSニューロンは、移植先のニューロンから何らかの情報を受け取り、その動物の行動に影響を与えうることが示唆されている。一方で、視覚や聴覚などによる、「外界からの情報」が、移植されたヒトiPSニューロンに入力されているかどうかは、現在のところ不明である。これを明らかにするため、マウスの脳に移植したヒトiPSニューロンが、現在そのマウスがいる「場所」の情報を受け取るかを電気生理学的に検証することを目標として研究を行っている。本研究は、移植したヒトiPSニューロンが、「生体にとって意味のある情報」を受け取りうるかを検証する点で意義深いと考えている。これまでの研究成果では、移植するヒトiPSニューロンのラベル化の条件を確立し、細胞移植技術を獲得した。さらに、生体脳内の神経細胞の発火活動を記録する技術を獲得した。上記目的を達成するための基礎的な条件が整ったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究で、ヒトiPSニューロンのラベル化のための光感受性分子の発現条件を確立した。さらに、細胞移植の手技と、生体脳における神経細胞の発火活動の記録技術を獲得した。以下に詳細を示す。 マウスの生体脳に移植したヒトiPSニューロンの活動を記録するためには、移植したヒトiPSニューロンと、元々存在するニューロンの活動とを区別しなければならない。そのために、光感受性分子チャネルロドプシン2 (ChR2) をヒトiPSニューロンに発現させることにした。ChR2 を発現したヒトiPSニューロンは、青色光照射に合わせて発火することが知られている。この性質を使って、ヒトiPSニューロンのラベル化を試みた。培養したヒトiPSニューロンに、アデノ随伴ウイルスを使ってChR2遺伝子を導入したところ、ChR2タンパク質の発現が認められた。さらに、生体脳にヒトiPSニューロンを移植し、7週間待った後、脳切片を作製したところ、ヒトiPSニューロンが生着していることが明らかになった。しかし、パッチクランプ記録法による検証で、移植したヒトiPSニューロンは、発火するほど成熟していないことも明らかになっており、より成熟させるための条件を模索する必要があると考えている。また、生きているマウスに電極を埋め込み、その脳内の神経細胞の発火活動を記録する技術を習得した。これにより、マウスを自由に行動させ、そのマウスが特定の場所に行くことで、移植したヒトiPSニューロンが発火するかを検証するための準備を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
現在の目下の課題として、移植後7週間のヒトiPSニューロンが、発火できるほど成熟していないことが挙げられる。移植後、より長期間待つことで成熟するかを検証したが、7週間以上待つと、移植したマウスの多くが死亡した。この原因として、免疫不全マウス (NOD SCIDマウス) を使用していることが考えられる。この免疫不全マウスは、通常のマウス(C57/BL6Jマウス) と比較して体力が少なく、短命であると考えられている。マウスにヒトの細胞を移植するため、免疫反応を抑制するために使用していたが、今回の研究では適切ではない可能性がある。そこで、通常のマウスの脳内の免疫反応を抑制するために、ミノサイクリンを投与することにした。ミノサイクリンは、脳内の免疫活動の中枢を担うマイクログリアの活動を抑制することが知られている。これによって、通常のマウスであっても、ヒトiPSニューロンを移植し生着させることが可能ではないかと考えている。今後、ミノサイクリンの投与条件などを検討する予定である。そして、ヒトiPSニューロンを移植した後、より長期間待ち、発火できるほど成熟しうるかを検証する。その後、自由行動下のマウスに電極を埋め込み、移植したヒトiPSニューロンの発火活動を記録することで、マウスがある特定の場所に移動した時に発火するかを検証する。これにより、移植したヒトiPSニューロンが、マウスのいる「場所」の情報を受け取るかを検証する。
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