研究課題/領域番号 |
19J14056
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松井 健人 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 民衆図書館 / 読書 / 教養理念 / 民衆教育 / ヴァイマル期 / ナチス期 / ドイツ図書館史 / ドイツ教育史 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヴァイマル期からナチ期の民衆図書館活動において、教養理念がどのように捉えられ、どのような具体的な図書館活動と結びついたのかを、専門誌・館報・図書館員の著作・手稿などの一次史料から解明することである。これを通して、実践面・理念面ともに断絶が前提とされてきたヴァイマル期からナチ期の教育史像に対して再検討を加える。教養理念と民衆図書館との結びつきを考察する本研究は、教養理念の所在をもっぱら教養市民層に帰してきたドイツ市民層研究や、ナチ期民衆図書館を「ナチ・イデオロギーの武器庫」(M. Stieg 1992)とみてきた歴史像とは異なる、新たな視点を提供することができる。 本年度は、ヴァイマル期の民衆図書館ならびに民衆教育界における教養理念の消息を課題として研究をすすめた。遂行した研究課題は具体的には以下の二点である。 (1)ヴァイマル期民衆図書館における路線論争(2)ヴァイマル期民衆教育における教養理念をめぐる論争 素人教養論争の検討 まず、第一点目のヴァイマル期民衆図書館における路線論争の検討においては、ヴァイマル期に閉架式民衆図書館を推進したW・ホーフマンとそれとは対照的に開架式図書館を推進したP・ラーデヴィヒの図書館論ならびに教育論を検討し、どのような教育論ならびに教養観が図書論・図書館実践に結びついているのかを検討した。第二点目のヴァイマル期民衆教育における素人教養論争の検討では、前述のホーフマンがW・フリットナーの著作『素人教養』に端を発する教育・教養理念論争に参加したことに着目し、閉架式民衆図書館を推進したホーフマンがどのような教育理念を有して、どのように現状を把握していたのかを明らかにすることを試みた。この研究課題の成果は研究論文として現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究への取り組みとして、ヴァイマル期民衆図書館活動における路線論争を検討するとともに、中心人物であったホーフマンの図書館論を検討した。また、ヴァイマル期ドイツにおける図書館・読書をめぐる社会史的背景を検討し、この成果の一部を日本教育学会・教育史学会で発表した。また、2月にドイツ現地史料調査を行い、ヴァイマル期・ナチ期民衆図書館関連の業界専門誌を網羅的に収集することができた。 なお、ドイツ教養理念を受容した大正教養主義にかかわる研究も一部展開したが、根本的な関心を維持したままかつ、当初の研究課題を補完する研究成果を得ることができた。とりわけ教養市民R.v.ケーベルの読書論を検討することで、当時のドイツ教養層の典型的読書観を明らかにできたことの意義は大きい。 研究成果に関しては、学会報告を3つ行うと共に論文4本を発表・発表確定することができた。量だけで判断するのは拙速とはいえ、公費をうけた研究課題で、当初の予想以上の成果発表し研究成果を世に問えたことの意義は大きいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究方針としては、ヴァイマル期につぐナチ期の民衆図書館・民衆教育ならびに教養理念についての歴史的検討を行うことを予定している。 ナチ期民衆図書館の検討に関しては、とりわけそのナチ・イデオロギー性が顕著に見られた国境図書館地域の活動・理念を分析することを予定している。またナチ期のみならず、ヴァイマル期の国境図書館地域の活動・理念についても参照することで、ヴァイマル期・ナチ期横断的な視点を獲得したい。 ナチ期の教養理念分析にあたっては、当時の教育業界の専門誌においてどのように「教養」(Bildung)概念が論じられたのかを分析する予定である。この際には、従来の思想史・概念史研究の成果を積極的に取り入れていきたい。 研究成果の発信に関しては、日本研究論文のみならず、英語研究論文を執筆し、図書館史専門の学術誌に投稿する予定である。
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