研究課題
本研究は、ヴァイマル期からナチ期にかけての民衆図書館活動を扱い、教養理念とのかかわりを重点に分析することで、教養理念と具体的教育実践との関連を解明した。上の検討を通じて、教養理念がヴァイマル期・ナチ期ともに、「従来の教養理念への批判」が常に提示されながら、新たなる教養理念の意味づけが行われたことが判明した。しかしながら、これの新たなる教養理念の提唱・実践は各人のイデオロギーに大きく影響される形で構築されるものであったこと、具体的実践としては図書館の閉架制/開架制の推進ならびに図書館蔵書の拡大/制限といった形で結びついていたことが判明した。とりわけ、ヴァイマル期・ナチ期において、「教養理念」が民衆図書館のみならず教育界で論争的課題となり、教養理念のブルジョワ性・特権的エリート性が批判されていたこと。そして民衆図書館員らもこれに参加し、同じく教養理念をエリート的・選民思想的と批判し「民族のための読書」、「平等な読書を通しての国民形成」といった読書の平準化を志向する言説が展開されたことは特筆すべき成果であると考える。以上のように、本研究は、教養にかかわる思想研究、図書館に関する教育史・図書館史研究というこれまでそれぞれ自己完結しがちであった研究領域を越境し、かつ双方の分野にかかわる新たな知見を提供できたことに意義を見出すことができると考えられる。また、理念が具体的社会動態に影響を与える様相を分析した本研究の手法は、異なる地域・年代においても適用可能性があると考えられる。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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研究室紀要 = Bulletin of the Division of Basic Theories of Education, Graduate School of Education, the University of Tokyo
巻: 46 ページ: 207-215
10.15083/00079500