研究課題/領域番号 |
19J14061
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小川 直希 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 多環芳香族炭化水素 / アズレン / ナノグラフェン |
研究実績の概要 |
新奇な構造を有する多環芳香族炭化水素を設計・合成し、その性質を明らかにすることは、将来的に新規有機材料の創出に繋がり得る重要な研究課題である。 本研究において、アズレン環構造を有するらせん状多環芳香族炭化水素の設計・合成に成功し、その特異な性質を明らかにすることができた。本化合物は2つの6員環と7員環構造から成る、過去に報告例のないらせん構造を有しており、実験的・理論的な検討からこのらせん構造が安定なキラリティーを持つことを明らかにした。これは室温で極めて速やかにラセミ化が進行する、既知の類似構造の性質とは全く異なっており、重要な知見であるといえる。また、本化合物は溶液中で自己会合挙動を示し、その会合挙動について詳細な検討を行った。その結果、本化合物は溶液中において、平面性の比較的高い部位同士が相互作用し、会合していることが示唆された。この自己会合挙動は本化合物の電気化学特性にも影響を与えており、濃度依存的なボルタンメトリー測定によってこれを明らかにすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に従い、アズレン環構造を有する新奇多環芳香族炭化水素について、そのキラリティー、自己会合挙動について重要な知見を得ることができたため。キラリティーについては、光学分割を行うことによって、室温でラセミ化しないことを実験的に明らかにするとともに、計算化学によって理論的にもこれを裏付ける事ができた。自己会合挙動については、NMR及び電気化学測定を通じてその会合様式、会合定数、酸化還元電位への影響について詳細に調査し、その特異な性質を明らかにすることに成功した。その過程では本研究で用いる合成手法の特徴を活かし、会合挙動の異なる構造類似体の合成が可能であることも明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、化合物2分子をスペーサーを介して2量化した分子を用いてホスト-ゲスト化学への応用を検討する。2量化する際にらせん不斉に基づくジアステレオマー(P*,P*)体及び(P*,M*)体が生じるが、現在得ている結晶構造から構造を予想でき、かつ将来的にキラル化合物の認識にも展開できる(P*,P*)体を用いた検討を優先する。スペーサーとして酵素のような誘導適合を期待し、柔軟なアルキル基を候補として計画している。双極子モーメントを持つゲスト分子を双極子-双極子相互作用によって強く認識すると予想できるため、その会合定数を双極子モーメントを持たないゲスト分子の会合定数と比較する。また、キラル分取HPLCによって光学分割した化合物から同様にホスト分子を合成し、キラルな化合物を認識する能力についても明らかにしたいと考えている。 また、らせん構造をもたない、平面状のアズレン含有ナノグラフェンも興味深い研究対象であるから、このような分子を設計・合成し、らせん状分子との比較を通じて詳細な知見を得ることも視野に入れている。
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