研究課題/領域番号 |
19J14128
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
松澤 翼 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ベンゾヘテロール / アライン / ヘテロ環化合物 / 含硫黄化合物 / 多置換芳香族化合物 |
研究実績の概要 |
本研究では、アライン中間体を経る多置換ベンゾヘテロール類の多様性指向型合成法の開発を目的とする。その実現のため、既に初期的知見を見いだしている、アラインとアルキニルスルフィドとの反応による多置換ベンゾ[b]チオフェン合成法に関してさらなる検討を行った。具体的には、様々な求電子剤を用いることで、ベンゾチオフェンの2位への多彩な置換基の導入を試みた。その結果、LDAによるベンゾチオフェンの2位のプロトンの引き抜きを経ることで、ヨード基やエステル部位などを導入できることを明らかにした。また、反応の基質適用範囲の拡大に取り組み、生物活性化合物に多く見られる、エストラジオール誘導体を有するベンゾチオフェンの合成にも成功した。さらに、2位に官能基導入できたベンゾチオフェン類を用いることにより、従来法では合成の容易ではないテトラアリールベンゾチオフェンや、有機電子材料などで重要な高度に縮環したベンゾチオフェンを合成できることも明らかにできた。 次に、チエノベンザイン前駆体を用いた官能基化を目的として、スルフィルイミンによるアラインのチオアミノ化を検討していた中で、チオアミノ化によって得られるo-スルファニルアニリン類から、フォトレドックス触媒や有機電子材料などで有用なN-アリールフェノチアジン類を簡便合成できることを明らかにした。 さらに、アルキニルスルフィドを利用する多置換含硫黄芳香族化合物の合成について、種々検討を行う中で、アルキニルスルフィドを酸化することで得られるアルキニルスルホキシドに対して、トリフルオロ酢酸無水物などで求電子的に活性化させることで、フェノールとの反応によって、2位にチオ基を有するベンゾフラン類が得られることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和元年度において、期待を上回る研究成果を挙げた。具体的には、(1)アルキニルスルフィドとアラインとの反応によるベンゾチオフェン合成法において、計画通りベンゾチオフェンの2位への多彩な置換基の導入を達成しただけでなく、従来法では合成の容易ではないテトラアリールベンゾチオフェンの合成や、エストラジオール誘導体の修飾にも成功した。 また、(2)ヘテロアライン前駆体の官能基化に利用出来る、スルフィルイミンを用いるチオアミノ化について検討していた中で、生成物であるo-スルファニルアニリン類に対して、高温条件下で塩基を作用させることで、炭素ー硫黄結合の切断を経て窒素原子へアリール基が転位し、さらに分子内でSNAr反応まで進行し、フォトレドックス触媒や有機電子材料などで有用なN-アリールフェノチアジン類を簡便合成できることを明らかにした。 さらに、(3)アルキニルスルフィドを酸化することで得られるアルキニルスルホキシドを求電子的に活性化させることで、フェノールとの反応によってベンゾフラン類が得られることを見いだし、多置換ベンゾヘテロール合成を実現できる新たなアプローチの開拓に成功した。 これらの成果は、第77回有機合成化学協会関東支部シンポジウムや第46回有機典型元素化学討論会において口頭発表した。さらに、国際学会である21st ESOCや27th ISHCにてポスター発表した。現在、各研究成果を国際学術誌にて発表する準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
1年目に確立できた、(1)アラインとアルキニルスルフィドとの反応による多置換ベンゾ[b]チオフェン類の簡便合成法の開発、(2)o-スルファニルアニリン類の転位を経るN-アリールフェノチアジン類の高効率合成法の開発について、国際学術誌に論文を投稿する。 次に、多置換ベンゾ[b]チオフェン合成法の知見を基に、ベンズジイン等価体とアルキンの末端にヘテロ原子を有する化合物との反応による、多置換ヘテロアライン前駆体の簡便合成法の開発、およびこれらの新規ヘテロアライン前駆体を効率よく発生できる条件の検討や、縮環部位の元素の種類や2,3位の置換基が反応の位置選択性に与える影響について、理論計算による予測も交えて解明を行う。 また、前年度の検討で見いだした(3)アルキニルスルホキシドの求電子的活性化を経るベンゾ[b]フラン合成法について、基質適用範囲等のさらなる詳細な検討を行った後に、アライン発生部位を有するフェノール類を反応相手として用いることで多置換フラノベンザイン前駆体の合成にも取り組み、多置換ベンゾヘテロール類の新たな合成アプローチの開拓を試みる。 最後に、これまでに開発できた新規ヘテロアラインを用いて、従来法では合成困難な多置換ベンゾヘテロール類の合成を試 みる。たとえば、創薬科学や材料科学において重要なベンゾヘテロール類に対して、アラインのオキシチオ化やチオアミノ化などの変換と組み合わせることで、それらの構造を複雑な置換形式に修飾することを試みる。これにより、革新的な性質を示す新規化合物の発見を目指す。
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