環境騒音中の低周波数帯域(200 Hz以下)に,卓越した狭帯域成分(純音性成分)を含んだ場合の聴感印象の変化を実験により定量化し,実験結果に基づいて純音性成分の評価方法を提案することを目的とした。本年度は,前年までに実施した実験結果をもとに理論的考察をするとともに,純音の強度・周波数をパラメータとした評価方法の提案を行ない,次の3つの成果を得た。 ①純音の最小可聴値を考慮した純音性指標の算出の試み:騒音中の純音の強度を表す指標の国際規格である純音性可聴度(Tonal Audibility)に,聴覚メカニズムの基礎であるマスキング理論に基づいた簡易的な補正項を加えることで,100 Hz未満の周波数帯域における純音性成分の可聴度がより適切に表現できることを示した。 ②純音の周波数および可聴度を指標としたノイジネス評価とペナルティの提案:評価実験の結果をもとに,純音性成分によるノイジネスの増加量(ペナルティ)を算出し,諸外国で用いられている国際規格やガイドラインと比べても概ね整合性が取れていることを確認した。これは,今回得られた知見が国内にとどまらず広く有効であることを示唆するものである。また,非専門家でも扱いやすい評価方法として,周波数(100 Hz以上/未満)と純音性可聴度(0 dB以上/未満)それぞれ2つの水準を与えることでペナルティ値を求めるという簡便な評価方法を提案した。 ③音に対する心理属性の相互関係に関する考察:音のラウドネスとノイジネスは線形の関係にあることが知られているが(ラウドネスが高ければノイジネスも高くなる),低周波数純音を含む騒音においては,純音周波数100 Hzを境として,純音周波数が高ければラウドネスが同程度でもノイジネスがより高くなる傾向があることが分かった。これは,②で純音周波数によってペナルティ値が異なることに対応する知見である。
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