研究課題/領域番号 |
19J14248
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原 尚史 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 異種複核遷移金属錯体 / アルミニウム / ロジウム / ピリジン / アルキル化 / シリル化 / 水素化 |
研究実績の概要 |
令和元年度,私はAl(アルミニウム)配位子含有Rh(ロジウム)錯体を触媒とした「(1)ピリジンの2位選択的アルキル化反応の開発」,「(2)ピリジンの2位選択的シリル化反応の開発」,そして「(3)Ar-O結合切断反応を伴う水素化反応の開発」を中心に研究に取り組み,以下の成果を得た。 (1)本反応の基質適用範囲を明らかにするとともに,共同研究によるDFT計算により詳細な反応機構を明らかにした。特に,DFT計算により得られた反応機構は当該錯体の性質を理解する一助になりうるものであり,今後の錯体開発において有意な知見を与えるものである。 (2)本反応の基質適用範囲を明らかにした。類似したシリル化反応ではフランやピロールの2位もしく3位C-H結合のシリル化が報告されているが,それら化合物部位を有するピリジンを本反応に適用したところ,ピリジンの2位C-H結合のみが選択的にシリル化されることを確認した。本結果より,当該錯体の高いサイト選択性が示された。さらに,本反応がピラゾール類にも適用可能であり,ピラゾールの3位C-H結合が選択的にシリル化されることを見出した。また,反応中間体をX線結晶構造解析により同定するとともに,各機構研究により反応機構を明らかとした。本結果より,当該錯体を用いた反応の律速段階が還元的脱離であることが示唆されたことから,還元的脱離を有利にするような錯体設計の重要性が示唆された。 (3)反応条件の最適化の結果,反応収率を90%程度まで向上させることに成功した。さらに,本反応の基質適用範囲を明らかにする際に,同様の反応によく用いられるニッケル触媒とは異なる選択性を示すことを見出した。本結果は,当該錯体が従来の単一金属系では達成不可能な選択性を示した重要な成果であり,当該錯体の触媒としての有用性を示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
各研究における進捗遅延の理由は以下の通りである。 (1)DFT計算と実験結果の整合性がとれず,計算方法の見直し,実験データの確認,さらに得られたDFT計算の結果の解釈などに時間がかかり,当初予定していた論文投稿に至らなかった。 (2)得られた生成物の単離方法の検討に想定以上に時間がかかってしまった。また,検討中に見出したピラゾールの3位シリル化反応の生成物同定や収率向上のための条件最適化に時間を使ってしまい,当初予定していた論文投稿に至らなかった。 (3)基質検討や反応機構研究にある程度想定通り進んでいるものの,反応の有用性を高めるために実施した他の反応条件との比較に時間を費やしてしまい,当初予定していた論文投稿に至らなかった。 また,上記研究に加え,本研究で用いているAl配位子含有Rh錯体の性質を明らかにするために,「13族元素配位子含有Rh錯体の合成とその性質比較」の研究を新たに始めたため,上記研究の進捗が遅延してしまった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,研究実績において記述したAl(アルミニウム)配位子含有Rh(ロジウム)錯体を触媒とした「(1)ピリジンの2位選択的アルキル化反応」「(2)ピリジンの2位選択的シリル化反応」「(3)Ar-O結合切断反応を伴う水素化反応」について,早期の論文投稿を目指す。 本年度に新たに見出した「ピラゾールの3位選択的シリル化反応」について,今年度中の論文投稿を目指し研究をすすめる。既に,反応条件最適化は終えており,目的物を収率80~90%程度で得られることを見出している。また,得られた生成物が問題なく単離できることも確認している。基質適用範囲の予備検討は既に終えているため,予備検討の結果と「(2)ピリジンの2位選択的シリル化反応」で得られている適用可能な基質の情報をもとに,迅速に基質適用範囲の検討を行う。基質適用範囲の検討を終えた後,簡単な機構研究・シリル基の変換反応の検討を行う。 また,上述した「13族元素配位子含有Rh錯体の合成とその性質比較」の研究も本年度中の論文投稿を目指しすすめる。既にB(ホウ素)およびGa(ガリウム)配位子含有Rh錯体の合成に成功している。今後は,In(インジウム)配位子含有Rh錯体の合成を検討するとともに,合成した配位子のルイス酸性・シグマ電子供与性・反応性の検討をすすめる。
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