研究課題/領域番号 |
19J14259
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
神野 崇馬 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 電磁ノイズ / 電磁回路 / メタマテリアル / 伝送線路 / 平面回路 |
研究実績の概要 |
2019年度は、これまでに開発した数値計算手法をメタマテリアルが持つ複雑な特異形状に応用するために、3次元回路における数値計算の実現を目指した。その結果、以下の3つを達成することができた。 (1) 数値計算を3次元へと拡張するための離散化手法の考案:本研究の目的を達成するためには、電磁気学と回路理論で表される現象を記述するために、偏微分積分方程式と常微分方程式を同時に解く必要があった。考案した手法は、有限体積法と電磁界計算で用いられる時間領域差分法(FDTD法)を組み合わせたものであり、3次元導体内の電磁気学現象を記述することを可能にした。その結果、3次元導体内の電位と電荷、電流、ベクトルポテンシャルの過渡現象を可視化でき、メタマテリアルの複雑な形状の任意の場所における物理量を定量化することを可能にした。 (2) 計算コスト削減のためのアルゴリズムの構築:3次元に拡張する際に、境界条件の計算コストが空間の分割数に比例して増大することがわかった。それを削減するために境界における電流の物理的特性を考慮することで、1次元と同程度の計算コストで済む境界条件の計算アルゴリズムを考案した。また、3次元回路の任意の場所に集中定数回路を接続できる境界条件式を定式化した。 (3) 実験検証と類似手法との比較による数値計算手法の妥当性の実証:(1),(2)で実現した3次元回路の数値計算手法の妥当性を証明するために、実験と類似手法である、部分要素等価回路(PEEC)法と、本研究手法で得られた数値計算結果を比較した。実験では時間領域反射(TDR)法を用いる。この手法は回路導体内にステップ電圧を入力し、回路形状の変化が原因で発生する反射波を観測する。数値計算結果と実験結果を比較すると、本研究手法で得られた結果の方が実験で得られた波形をより詳細に再現しており、回路構造を精度良く考慮できることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度では、新たな数値計算手法を開発することで、これまでに開発した1次元回路の数値計算手法を3次元へと拡張することができた。さらに、開発した数値計算手法と実験との比較では、回路の屈曲などの形状を精度良く再現していることを確認し、本研究手法の妥当性を実証することができた。以上より、任意形状導体内の電磁気学現象を記述することができるようになり、メタマテリアルアンテナへの応用へと近づくことができたため、本研究はおおむねね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、以下の2つの内容の実現を目指す。 (1) 遅延現象を考慮した数値計算の実現:遅延現象とは、導体間の電磁気学的な相互作用が距離に応じて遅れて生じることである。この計算を実現すると、電磁ノイズの原因となるコモンモードの減衰などを考慮することができるため、より詳細な電磁ノイズ現象の定量化が可能になる。先行研究では遅延現象を考慮した時間領域における数値計算は発散しやすい問題があることが知られている。安定した数値計算を実現するためには、方程式を離散化するための関数の最適な組み合わせを見つけることと、境界条件の計算を工夫する必要があるため、それらの手法の確立を目指す。 (2) 高周波メタマテリアルアンテナのノイズレス・高効率化構造の開発:まずは、遅延を考慮した数値計算の妥当性を評価する実験検証を行う。実験では、TDR法を用いることで、回路内に伝搬する信号の過渡応答を観測する。数値計算と実験の結果から得られる信号波形より、これまで明らかにされていない回路導体の幾何学的形状や遅延現象に起因する電磁ノイズ現象の発生メカニズムを解明することで、ノイズレス・高効率化構造を考案する。具体的には、コモンモードを発生させず、かつ歪曲させない信号伝送を実現させることを目指す。
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