研究課題/領域番号 |
19J14315
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
水田 巽 大阪府立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 色素液体 / 可塑化PVC膜 / 酵素活性アッセイ / 免疫測定 / マイクロ分析デバイス |
研究実績の概要 |
今年度はまず、所属研究室で既に知見のある、クマリンのリン酸化誘導体を利用し、これと嵩高い4級ホスホニウム(P66614)カチオンから成る色素液体を合成した。これは蛍光応答性色素液体であるため、蛍光顕微鏡から得られる蛍光画像から、容易に応答を評価できる。これを可塑剤としたPVC膜の作製にも成功し、ALP試料との界面反応を評価したところ、アルカリホスファターゼ(ALP)濃度に対して明瞭な蛍光強度変化が得られた。これを従来型PVC膜と比較したところ、色素液体を用いたPVC膜の方が約6倍の感度を有していることが分かった。また、色素液体を用いたPVC膜の界面反応では、反応後に脱離するリン酸化学種分の電荷保障のために、水溶液中からPVC膜へアニオンが抽出されることも明らかになった。 次に、目的の変色応答が期待できるフルオレセインのリン酸化誘導体のアニオンとP66614カチオンで構成される酵素応答性色素液体を合成した。合成した色素液体をPVC膜の可塑剤としたところ、膜厚約200nmの均一な膜の作製に成功した。しかしながらALPに対する変色応答を評価したところ、1 U/mLのALP試料に約1時間浸漬しても明瞭な変色応答が得られなかった。これは、変色応答には生成物と未反応物の物質量比が重要であり、酵素反応後の脱リン酸化色素の割合が大きくないためだと考えられる。 現在はこの解決のために、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いる蛍光増強の、色素液体への適用を考えている。これは多量のドナー蛍光色素から少量のアクセプター蛍光色素への集光効果を利用するもので、太陽光程度の小さな励起エネルギーでも、極微量の蛍光色素の化学構造変化を検出できる高感度な蛍光応答が期待できる。予備実験で原理検証できたことから、この方法に基づき、高輝度光源不要な画像解析型蛍光応答分析デバイスを開発できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標であった、色素液体を用いたPVC膜界面での酵素反応に基づく応答が確認でき、また、従来型PVC膜に対する高感度化も実証できた。したがって、先行研究と同様の膜表面へのハイドロゲル膜コーティングにより、高感度な1ステップELISAの実現性が示唆されたと考えている。また、FRETに基づく蛍光増強により、蛍光顕微鏡のような高価な装置を用いない簡便な蛍光色の評価に基づくセンシングの可能性を示唆する結果も得られた。この結果から、最終目標である簡便な画像解析型分析デバイスの実現に着実に近づいていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まずFRETに基づく蛍光増強を利用した酵素検出の高感度化を検討する。具体的には、ドナー用色素液体として、ピレン誘導体アニオンとP66614カチオンから成る色素液体、アクセプター用酵素基質として、フルオレセインのリン酸化誘導体を用いる。少量のアクセプター用酵素基質を含有する、ドナー用色素液体を可塑剤としたPVC膜を作製し、界面反応に基づくALPセンシングを行う。この応答を、感度・応答時間の観点から従来型PVC膜と比較する。またここでは、膜の蛍光色解析のデモンストレーションとして、ハンディUVランプ下での発蛍光像を撮影し、応答の解析を行う。 次に、報告済みのPVC膜固定化マイクロ分析デバイス作製法と、ハイドロゲルコーティングを組み合わせ、分子ふるい能を持つセンサー膜を作製する。ここでは、計画通りC 反応性蛋白(CRP)、ヘモグロビンA1c(HbA1c)をターゲットタンパクとし、これらのALP標識抗体と、抗原抗体複合体の分子ふるいに基づくタンパクセンシングを検討する。その後、デバイスへALP標識抗体を含む可溶性膜の固定を実施し、最終的な画像解析型1ステップマルチELISAデバイスを開発する。
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