科学思想と文学の相互関係を探求するため、特に19世紀末から20世紀初めのドイツ語圏における人造人間表象を中心に分析を行った。 2020年度は、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻の紀要『超域』に、ドイツ人作家ハンス・ハインツ・エーヴェルスの小説『アルラウネ』と当時の人工授精技術との関係を論じた論文「人造人間と創造の多元性 : ハンス・ハインツ・エーヴェルス『アルラウネ』における人工授精科学と「思想」について」を投稿し、刊行された。加えて、雑誌『科学史研究』に、エーヴェルスの科学入門書『蟻』と当時の生物学主義の関係を論じた論文「幻想文学と科学入門書の狭間 : ハンス・ハインツ・エーヴェルス『蟻』における擬蟻法」を投稿し、刊行された。 学会発表は、日本独文学会秋季研究発表会において、エーヴェルスの小説『フントフォーゲル』について当時の性科学、とりわけ性科学者マグヌス・ヒルシュフェルトとホルモン学並びに性転換手術に関する科学言説を踏まえつつ論じた発表「ハンス・ハインツ・エーヴェルス『フントフォーゲル』(1928)における性転換手術について」を行った。また、日本独文学会関東支部において、ドイツ人化学エンジニアかつ作家リ・トッコ(本名ルートヴィッヒ・デクスハイマー)の未来小説『オートマタ時代』について、当時の精神物理学的一元論との関係から論じた発表、「戦間期ドイツにおける進化論の射程――リ・トッコ『オートマタ時代』(1930)における一元論的世界観の表出」を行った。 学会発表については、現在論文化と投稿を進めており、今後速やかに査読を通過し、刊行されることが望まれる。また、2020年度に公開された二編の論文についても、今後改稿を加えたうえで、博士論文の一章として改善されることが期待される。
|