ALS病因タンパク質FUSが伝播により病変を拡大する可能性を考え、AAV9-FUSを利用した実験動物によるFUSの神経細胞間伝播の可視化モデルの作出、培養細胞を用いたFUS伝播測定モデルの構築を行った。近年FTLD患者脳の大脳新皮質神経細胞の細胞質に非メチル化アルギニンFUS (UMA-FUS) の蓄積が認められたことに着目し、FUSのアルギニン非メチル化状態が伝播に与える影響の解析を試みた。その結果、アルギニン非メチル化は、FUSの細胞間伝播を亢進させること、とくにFUSのArg495、Arg498、Arg503が細胞間伝播に関与することを見出した。さらに、2分子間の近接を異なる動物種由来の抗体を用いて可視化することのできるProximity Ligation Assay法や青色光刺激により集合するCRY2-oligなどの先進的な技術を駆使して、FUSの非メチル化状態と多量体化について検討を行った。最近FUSのカルボキシ末端のアルギニン残基がアミノ末端のチロシン残基とカチオン-π相互作用することにより、FUSの液―液相分離が生じることが報告された。本研究結果から、FUSのArg495、Arg498、Arg503などカルボキシ末端のアルギニン非メチル化は、カチオン-π相互作用によるFUSの分子間結合を促進し、FUSの細胞間伝播を促した可能性が示唆された。今後、FUS伝播センサー細胞を用いて、アルギニン非メチル化によるFUSの多量体化と細胞間伝播の関係についてより詳細に検討を行うとともに、AAV9-FUS実験系を用いて、神経細胞間伝播とFUSによる神経細胞障害の関係を解明し、FUSの神経細胞間伝播が病態進展に果たす役割を明らかにしたい。なお、2020年秋に名古屋にて開催された第39回日本認知症学会学術集会では、これらの実験成果に関するポスター発表を行い、学会奨励賞を受賞した。
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