宇宙背景ニュートリノ(CνB)は初期宇宙で生成され、現在の宇宙に存在すると考えられているニュートリノで、これは宇宙誕生から約1秒後の宇宙の情報を私たちにもたらすと期待されています。そして、CνBの直接観測は、CνBが現在の宇宙に存在しているかを確かめるだけではなく、宇宙背景放射(CMB)と相補的に、標準模型を超えた物理に関するより詳細な情報も得ることができると考えられます。そこで、CνBスペクトラムを精密に直接観測する手法について考察を行いました。 CνBの直接観測によって、CMBとは異なる初期宇宙の詳細な情報を手に入れるため、トリチウムを用いた直接観測実験の精密な定式化を行いました。まず、逆β崩壊過程によるニュートリノとトリチウムの反応率を1%の精度で定式化しました。このとき、前年度の研究で求めた脱結後の一様等方なニュートリノスペクトラムと地球の近辺にある銀河の引力による集積の効果を組み合わせ、現在の宇宙でのCνBの数密度を1%程度の精度で評価を行いました。そして、これらの結果を用いて、反応率を1%の精度で実際のこの直接観測実験で測定するために必要なトリチウムの量を評価しました。また、CνBの観測可能性を議論しました。このとき、ニュートリノの質量階層性によって場合分けを行い、比較的重く観測可能性が最も高いニュートリノだけではなく、質量のないニュートリノの観測可能性、質量が縮退した二つのニュートリノを観測的に区別できる可能性まで、網羅的に議論を行いました。さらに、トリチウムから放出される電子のスペクトラムから CνB のスペクトラムを再構築する手法についても議論しました。これらの結果を用いて、将来ニュートリノを通じて、宇宙、特に初期宇宙の詳細な情報を観測によって得ることができると期待されます。
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