研究課題/領域番号 |
19J14456
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
梅本 祥央 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 大脳基底核 / 動機づけ / 視床下部 / 鳴禽類 |
研究実績の概要 |
本年度においては、申請した研究計画のうち研究1および2について実施した。 研究1では、オスのブンチョウの大脳基底核Area Xのニューロンにおいて連続する発声前に生じる発火頻度の漸増について定量的に解析した。分析では、歌と呼ばれる学習性の発声とトリルと呼ばれる生得的な地鳴きの2つの発声について、発声開始7秒前から発声終了までを対象とした。その結果、歌では3秒、トリルでは1秒の間と、発声の開始前における発火頻度の上昇時間が有意に異なることが明らかとなった。また、発火頻度の上昇率に発声の学習性の有無による有意な差はなかった。上記の成果は、これまで学習性の発声を行っている時間の活動のみ検討されていた大脳基底核のニューロンについて、一連の発声行動をその前後まで含めて生得的な発声と比較して有意な活動の差を得たことに新奇性がある。本研究の結果は国際学会において2回、国内学会において2回発表している。 研究2では、ブンチョウの歌のうち自発的かつ内発的な動機づけによるものとされる無指向歌と異性に対して歌う外発的な指向歌の二者における発声頻度とその動機づけに関わるとされる視床下部視索前核の損傷操作による影響を分析した。予備結果ではあるが、標的神経核の周辺部の電気損傷によって無指向歌のみ発声頻度が減少し、指向歌には影響しない傾向が見られている。また、ブンチョウの他に実験動物として用いられるキンカチョウやジュウシマツといった近縁種と比較して、ブンチョウのオスは特定のメス個体にしか指向歌を歌わない傾向が非常に強かった。この傾向は観察水準では報告があったものであるが、量的にも明らかとなった。この結果は、ブンチョウの異性に対する行動に選好性が強く影響することを示唆する。このことから、近縁種を用いた過去の研究では不明瞭であった選好性と歌の動機づけに関わる神経活動に関して新たな知見が得られると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請した実験計画のうち、研究1と研究2に関しては実績に述べた通りの進捗を達成している。研究1については現在雑誌への投稿準備を進めており、本年度中に掲載を見込んでいる。また、必要に応じて神経活動データを追加するために実験を行う。研究2については、上記実績で述べた予備実験によって視床下部における電気損傷が発声頻度に影響しうることを明らかにした。現在は、本実験に移行するために標的神経核である視索前核においてより確実な損傷を作成するための実験を実施している。当初の計画では当該年度に視索前核損傷の手技を確立して本実験を開始する予定であったが、次年度に行うこととなった。そのため、研究当初の見込みよりは遅れている。また、ブンチョウなど鳴禽類は個体間の発声頻度における差が大きいため、テストステロンやエストラジオールといったステロイドホルモンを投与し、ホルモン水準を繁殖期の水準に引き上げることで発声頻度を向上させ、標的部位の損傷効果を見極めやすくする試みが従来行われてきた。本研究においても、予備実験の過程で発声頻度の低い個体が見られたため、3羽のオスを用いてステロイドホルモン埋め込みの効果を測定した。近縁種と同様、ステロイドホルモン水準の増大によってブンチョウの発声頻度が学習性の有無を問わず上昇していることを確認している。 神経活動記録を伴う研究3および4に関しては、手技確立を行っている。研究2の実施を優先しているため着手段階であるが、進展に応じて神経活動記録を開始する。
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今後の研究の推進方策 |
現在、所属研究機関において入構制限が敷かれているため実験は中断している。現段階では、解除後を見据えてデータ処理や雑誌に投稿する論文執筆を進める。具体的には、哺乳類など他種における視床下部視索前核の神経活動や損傷実験についての過去の研究を整理し、本研究のブンチョウにおける実験の計画を見直す。 研究2に関して、標的部位である視索前核に的中した電気損傷が予備実験において達成できなかったため、電極刺入座標の吟味を含めて実験を進める。研究3と研究4において大脳基底核の神経活動と発声頻度の相関を調べるためには、上流である視索前核の確実な損傷が必要となるため、優先的に取り組む。オスを用いて視索前核の推定される位置に電気損傷を作成し、灌流固定の上脳切片を作成する。作成した脳の組織標本を顕微鏡観察し、実際の視索前核の位置と無指向歌および指向歌のホルモン操作前後の発声頻度変化を分析し、損傷実験へと移行する。 研究3と研究4は研究2の実験終了後に実施する。上記進捗で述べた通り、神経活動記録の手技を確立する。視床下部は研究1の標的であった大脳基底核Area Xよりも深い位置にあり、2箇所から同時に神経活動を記録した報告はない。したがって、視床下部における多点固定細胞外記録と大脳基底核における多点移動細胞外記録をまず試みる。もし、技術的に困難であればそれぞれの標的神経核を別個体で行った上での個体間比較をおこなう。いずれかの方法を用いて、無指向歌および指向歌を発声している時間およびその前後における大脳基底核と視索前核の神経活動変化を記録し、分析する。
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