当該年度における研究は、鳴禽の一種であるブンチョウの神経損傷と、ドーパミンD1受容体作動薬の注入による自発的な発声頻度の検討を実施した。新型コロナウイルス流行による特例で期間を6ヶ月延長している。 鳴禽が自発的に発声学習を行い、発声する無指向歌 (US)を開始する際の大脳基底核Area Xの神経活動変化について、前年度までに量的な解析を終えて生得的な発声よりも長時間生じることが分かっていたが、実際にどのような経路で発声行動と結びついているかは検討されていなかった。Area Xは中脳腹側被蓋野 (VTA)やPOMより投射を受けるが、過去の研究ではUSの発声頻度にVTAからのドーパミンが正の、POMのが負の影響を与えると報告されていた。したがって、将来的なArea Xと両者の神経活動比較のため、USがドーパミン量の操作、あるいはPOMの損傷で発声頻度等に変化が生じるかを検討する事を目的とした。 オスのブンチョウ6羽を用い、1日のうちでUSおよびメスへの発声 (DS)の発声頻度を測定する予備実験、さらにドーパミンD1受容体作動薬SKF-38393の注射前後の両発声を測定する本実験を行った。結果として、ドーパミン受容体作動薬によってUSの発声数は変わらなかったが、発声時間は短く、より集中した時間で行われるようになった。DSの記録は分析に必要な数に届かなかったほか、POMの損傷前後で明確な傾向の違いはみられなかった。 これらの結果はD1によるUSの頻度増加を報告した過去の研究とは異なるが、ドーパミンによって自発的な発声行動が短期間に集中させられる効果があることが示唆される。ドーパミンは行動の動機づけに関わるとされるが、本研究の結果は動機づけそのものを増加させるよりは個体内の動機づけが行動に表れる機構をドーパミンが促進しているといえ、将来的な行動測定における潜時と行動量の切り分けの重要性を示唆した。
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