研究の最終年度にあたる本年度は以下の3つの課題に取り組んだ。 1.日本の教育システムの特徴を、国際比較の観点から再検討した。本研究が理論的に依拠する、<スキル形成理論>は、教育システムをスキル形成の場とする点に特徴がある。この理論的枠組みに依拠し、OECD教育統計を用いて、先進諸国の教育システムを、職業的教育と普通教育との比重、ならびに公的教育支出の比重を指標として、比較分析した。これまでの国際比較研究では、日本の教育システムは普通教育主体で公的教育支出が低いアメリカに類似する普通教育主体であると位置づけられてきたが、あらたな日本の教育の特徴として、(1)高等教育レベルに相当する非大学プログラムの比重とここに在籍する女性の割合が他の先進諸国に比して大きい点、2) 高等教育を修了した若者の就業率の男女差が大きい点を指摘し、背景として、日本の家族主義的な福祉レジーム、そして、日本の企業特殊的なスキル形成レジームが相まって、日本の男女のスキル形成の差異を他国よりも大きなものにしている点について、理論的説明を導き出た。 2.女性の職業的スキルと継続的キャリアの関連についての分析を行った。この課題の目的は、昨年度の研究成果である佐野(2019)(1)で明らかにされた、女性に主要なスキル形成のパターンである資格スキルを用いて働く女性のキャリアに注目し、獲得されたスキルがキャリアの中でどのように活かされ、どのような実質的な効用をもたらしているのかを、職業移動と賃金上昇効果を従属変数とした分析により明らかにした。 3.本研究課題を今後さらに発展させるための、探索的分析にも取り組んだ。近年上昇傾向が著しい中高年期の女性に争点を当て、女性の教育歴と継続的キャリアとの関連が、2000年以降どのように変化したのかを明らかにするための分析を行なった。 最終成果を博士論文としてまとめている。
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