本研究では、運動実践がもたらす心理的効果について「ひとりでの実践」と「仲間との実践」を詳細に比較し、高齢者の精神的健康の保持・増進に有効な運動実践方法を明らかにする。これまでの限界点をクリアした1万名規模の疫学研究により、「運動仲間の存在はどのような者にとって特に有効なのか?」「ひとりで/仲間との運動の効果にどの程度の差があるのか?」に焦点を当て、仲間との運動実践と精神的健康における因果関係の解明に迫る。また、その影響経路について、一過性の運動効果の高まり及び社会的サポートの充足に焦点を当て、高齢者における運動仲間の意義(効果)を部分的に明らかにする。 本年度は、郵送調査を用いた5年間の縦断研究により、仲間との運動の心理的効果に加えて要介護発生や死亡という強固なアウトカムとの関連性を検討した。その結果、仲間との運動実践は、要介護発生や死亡リスクの低減に寄与しうる可能性が明らかとなった。さらに、その影響経路となりうる身体機能や認知機能との関連性を明らかにするため、郵送調査だけでなく体力・認知機能測定などのフィールド調査の結果も活用し検討した。その結果、仲間と運動実践している者、ひとりで実践している者に比べ、身体および認知機能が良好であることが明らかとなった。 このように、本年度は心理的効果にとどまらず、高齢者の介護予防や寿命延伸に直結する重指標との関連を新たに発見した。これらの成果は、今後高齢者の健康づくりを推進していく上で重要な知見となりうるだろう。一方で、仲間との運動実践効果のメカニズムには迫り切れていないため、今後さらに検討してく必要がある。
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