研究課題/領域番号 |
19J14515
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
新稲 亮 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 分子動力学 / モンテカルロ法 / 粗視化 |
研究実績の概要 |
生物の身体を構成している細胞の中では、精巧な分子機械が多様な化学反応を制御し、生命の複雑な機能を支えている。実験での観察が難しい分子の細かな機構を調査する際は分子シミュレーションが強力な道具になるが、化学反応のシミュレーションは複雑であるため、計算できる時間スケールは限られている。この研究では、計算コストを克服し長い時間スケールでの観察を可能にするため、粗視化分子動力学とモンテカルロ法を組み合わせた新しいシミュレーション技法を開発し、それを用いて細胞がその機能をどのように制御しているかを明らかにすることを目指す。 本年度の主な成果として、本研究で提案した手法を高速に実行できるシミュレータを開発した。また、それを用いて比較的単純なタンパク質・核酸複合体に適用して予備的なシミュレーションを行なった。これにより、現在使用している粗視化分子モデルが、特別な補正の必要なしに核酸の化学結合状態の変化に適用できることが確認された。 また、核酸の分解・伸長反応に重要な役割を果たすマグネシウムなどを本研究で使用する粗視化モデルに導入するため、二価金属イオンと粗視化分子モデル間の相互作用を開発し、実験データに基づいたパラメータの調整を行なっている。これは本研究に限らず、多くのタンパク質・核酸複合体の粗視化シミュレーションを行う上で広く利用可能なモデルとなることが期待される。 並行して、提案手法の精緻化のため、量子化学計算によって反応経路の探索を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、本課題で提案した分子動力学法とモンテカルロ法を組み合わせた手法を実行できるシミュレータの開発が概ね完了し、単純な系を用いた予備的なシミュレーションによって本課題で利用予定の粗視化分子モデルが特別な補正なしで機能することが確認された。 また、本研究で用いるための二価イオンのモデルの開発も行なった。構造依存的なパラメータはProtein Data Bankからの網羅的な探索によって決定した。他のパラメータについて、現在核酸と二価イオンを含む系とタンパク質・核酸複合体と二価イオンを含む系のそれぞれでシミュレーションを実行し、親和性などの実験データに対してフィッティングを行なっている。 また、本研究で提案した手法の精緻化のために、反応条件の細部を補強するためのより精緻な量子化学シミュレーションについても実行環境が整い、操舵分子動力学を利用して反応経路の候補を探索している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で提案した手法を実際のタンパク質・核酸複合体の反応と運動に適用するために、反応条件の細部を補強するためのより精緻な量子化学シミュレーションによって反応経路を探索し、その経路に沿った自由エネルギー計算を行う。その結果を用いてモンテカルロ法での反応条件を決定する。それのみで確定しないパラメータに関しては、複数の値を使用して予備的なシミュレーションを実施し、その結果と一分子計測によって得られた実験データと比較し、フィッティングを行うことによって決定する。 並行して、現在申請者が使用している粗視化モデルでは考慮されていない、核酸の反応に於いて重要な役割を果たすマグネシウムなどの金属イオンとタンパク質・核酸複合体との相互作用について、申請者の過去の研究で用いた相互作用を改変して適用したしたモデルを適用し、パラメータを実験的に知られている解離定数の値にフィッティングする。 これらを統合し、化学反応によって駆動されるタンパク質・核酸複合体全体の連続した運動の粗視化分子動力学シミュレーションを行う。化学反応を考慮した上で、粗視化によって可能になる長時間スケールのシミュレーションを行い、運動中のタンパク質の挙動や核酸と金属イオンの挙動との関係を調査する。そこから、運動速度の配列依存性や運動を駆動する力の生成に関わる分子機構などに注目して解析を行い、実験によって提案されているモデルと比較し、検証を行う。
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