研究課題
本研究は,新しいレアアース資源として注目を集めている深海堆積物「レアアース泥」について,その化学組成と堆積年代に着目して,「いつ・どこで・なぜ」資源が生成したのかを解明するとともに,重点的な探査を行うべき有望海域を明らかにすることを目的としている.本研究について2019年度は,効率的なレアアース泥の堆積年代決定手法の開発を行った.これまでの研究から,レアアース泥中に豊富に含まれている魚類の歯や鱗の微化石「イクチオリス」が年代決定に有効であることが示されているが,化石の収集と観察に時間を要することが,多数のサンプルで網羅的に年代決定を行う上で大きな制約になっていた.そこで,イクチオリスの粒径や密度が他の鉱物と異なることに着目し,堆積物試料からイクチオリスを効果的に濃集する手法を確立した.さらに,濃集させた大量のイクチオリスを効率よく観察するため,粒子を封入したスライドガラスをスライドスキャナーによって画像化し,この画像から機械学習によってイクチオリスを自動で探し出す手法の検討を行った.2020年4月現在は,試験的な機械学習モデルの構築まで完了しており,人間の手作業をはるかに上回る数の化石観察ができることが明らかになりつつある.これに加えて,これまでに得られている,南北太平洋の8本の深海掘削コアの化学組成および堆積年代についての情報を整理し,これらのコアで普遍的に見られる化学組成変化とその要因について検討を行った.その結果,全てのコアにおいて,堆積物は化学組成の特徴から3層に分類することができ,さらにその3層の移り変わりは新生代 (現在から約6,600万年前までを指す地質時代) のグローバルで長期的な地球環境の変化を反映していることが示唆された.
1: 当初の計画以上に進展している
上記の効率的な化石観察手法の開発によって,多数のサンプルで高精度な年代決定を行うための準備が概ね整った.このような化石の物性に着目した化石収集技術や機械学習を活用した観察は,研究計画時には期待していなかった成果であり,本研究で扱うイクチオリスのみならず,様々な微化石の研究に応用できる可能性がある.なお,この成果は2020年に開催されるJpGU-AGU Joint Meeting 2020にて発表を予定している.さらに2019年度には,これまでの研究成果についての筆頭論文1本が査読付きの国際誌に掲載されたほか,国内外の学会にて計3回の研究発表を行っており,研究成果の公表についても順調であるといえる.
まず,機械学習の訓練に用いるイクチオリスの画像データを拡充し,イクチオリス検出モデルの高精度化を行う.並行して,上記の効率的な化石観察手法を用いた網羅的な化石観察を行い,研究対象としている太平洋における8本の深海掘削コアについて,これまでに得られている堆積年代を高精度化する.これにより得られる堆積年代に関する知見と,これまでの研究から得られた化学組成に関する知見を統合し,太平洋の堆積物コアで共通してみられる堆積層の移り変わりが,どのような地球環境変動と関連しているかについてより高解像度な議論を行う.
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Ore Geology Reviews
巻: 119 ページ: -
10.1016/j.oregeorev.2020.103392
Journal of Asian Earth Sciences
巻: 186 ページ: -
10.1016/j.jseaes.2019.104059