研究課題/領域番号 |
19J14598
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
尾島 望美 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | Gut microbiome / Antibiotics / Vancomycin / Probiotics / Bifidobacteria |
研究実績の概要 |
ヒトの腸内細菌叢は、ヒトの健康に大きな影響を及ぼすことが近年明らかとなっている。しかし、腸内細菌叢は薬の服用(特に抗生物質)などで頻繁に、かつ継続的に攪乱を経験し、細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)は肥満や炎症性腸疾患などの身体への悪影響を及ぼすことが報告されている。近年では、抗生物質によるディスバイオシスの治療の一環としてプロバイオティクスが使われているが、実際の効果については未解明な点が多い。本研究では、マウスを用いて、ディスバイオシス後の回復においてのプロバイオティクスの効果を検証した。 抗生物質として Vancomycin, Amoxicillin, および Ciprofloxacin の3種類を使用し、プロバイオティクスとしては Bifidobacterium bifidum JCM1254 を使用した。計9週間の実験の中で、3週間に一度、抗生物質をマウスに7日間投与した。抗生物質投与後、いずれかの回復処置を行った:1)プロバイオティクス投与 (B. bifidum); 2) 健康なマウスからの糞便移植 (FT); 3) 自然回復 (Natural Recovery) (図1)。 腸内細菌叢のレスポンスは、抗生物質の種類で大きくことなることが明らかとなった。特に一回目のVancomycin投与では Proteus 属細菌など、 Proteobacteria 門に属する炎症系の菌の上昇がみられた。しかし、抗生物質投与が2回、3回と継続することにより、その影響は徐々に減少した。また、Vancomycin投与によって、盲腸は肥大化し、コントロールと比べて2倍の重さになった。本研究では、プロバイオティクスによる多様性の回復は見られなかったものの、プロバイオティクス投与によって盲腸の肥大化や炎症が抑制された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はマウスを用いて、攪乱と外部からの種の移入が腸内エコシステムへ及ぼす影響の解明、及びそれらの結果を基に介入法を提示することを目的とした。抗生剤によって攪乱を引き起こした後、プロバイオティクスを投与し、腸内細菌叢の回復時間 (腸内細菌叢のレジリエンス) と長期的な影響、及び回復メカニズムを解明すべく、研究を行った。 当初は回復処置として、プロバイオティックスとプレバイオティックスを投与する予定ではあった。しかし、2018年の Cell に掲載されたSuez et al. の結果を受け、プロバイオティクスの効果を糞便移植の効果と比較を行うことにした。また、菌叢解析はT-RFLP法で行う予定であったが、NGS解析を行うことができた。 上記を行った結果、次の3点が明らかとなり、本研究は期待通りに進展した。1) 抗生剤によるディスバイオシスは、抗生剤のスペクトルの違いによって大きく異なる。 (例:Vancomycin のみ、炎症系の菌の増加がみられた) 2) プロバイオティクス投与は、炎症系の菌が増加した時のみ効果がみられる。3) プロバイオティクス投与は、腸内細菌叢の多様性の回復には貢献しない。 上記の結果をもとに、6月に米国微生物学会にてポスター発表を行い、現在論文投稿の準備を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度は、抗生物質による攪乱後の回復において、糞便移植やプロバイオティクスの効果を検証した。本年度は、プレバイオティクスの効果も検証する。また、得られた結果をもとに論文を執筆・投稿をする。
|