オリゴ核酸は遺伝子に直接作用し、難病の根治を実現しうる次世代の医薬品候補であるが、その一般的合成法は高価な試薬や基質を要する。三塩化リンは安価かつ反応性および原子効率が高い理想的なリン源であるが、求核剤の導入を制御できない。本申請では、マイクロフロー合成法を活用することで、三塩化リンへのアルコールの選択的導入手法の開発を目指すとともに、そのオリゴ核酸合成への展開を図る。 R1年度は、はじめに脂肪族のアルコールをモデル基質として用い、三塩化リンへの選択的導入を試みた。種々の検討の結果、三塩化リンに対して副反応を抑えつつ1分子のアルコールを導入可能な条件を見出した。本反応は数十ミリ秒と極めて短時間で進行する反応であり、バッチリアクターを用いた条件との比較から、混合効率に優れたマイクロフローリアクターの使用が本反応において不可欠であることを見出した。一方、予め1分子のアルコールが三塩化リンに導入された化合物(ジクロロ亜リン酸エステル)に対し、2分子目のアルコールの導入を試みたところ、副生成物が多量に生じて目的物を選択的に得ることは困難であった。この結果は、マイクロフローリアクターを用いて数ミリ秒の反応を制御することで得られた、三塩化リンおよびクロロ亜リン酸エステル類とアルコールの反応速度に関する初めての定量的知見である。なお、2分子目のアルコールの選択的導入が困難である問題については、添加剤の使用により選択性が大幅に改善可能であることを示唆する結果を得ている。また、チミジンを原料とするジヌクレオチドの合成に先述したモデル基質を用いる反応系で確立した反応条件を変更することなく適用したところ、モデル基質を用いた場合と同程度の収率で目的物が得られることを見出した。
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