2020年度は「透明でフレキシブルなグラフェンアンテナの特性制御と設計」の達成に向けて、低シート抵抗と高可視光透過率を併せ持つ3層積層グラフェン膜を電極材料とする接地板付きモノポールアンテナの作製と評価に取り組んだ。 まず3層積層とキャリアドーピングにより、90%以上の高い可視光透過率と80Ω/sqの低シート抵抗を併せ持つグラフェン膜を作製した。波長900-1300nmの近赤外領域における同グラフェン膜の透過率は、キャリアドーピングによって約2.3%上昇することが確認された。これはグラフェンのフェルミ準位がドーピングによって下がり、光励起に起因した電子のバンド間遷移による2.3%の光吸収が無くなる(Pauli blocking)波長端が高エネルギー側にシフトしたためであると考えられる。そのためグラフェンは導電率と透過率にトレードオフの関係がない特異な材料であることが分かった。今後さらなるドーピングによって、近赤外帯だけでなく可視光帯における透過率の上昇も期待できる。 次に低抵抗3層積層グラフェン膜を電極材料とする接地板付きモノポールアンテナを作製した。グラフェンアンテナと参照用のAuを電極材料とするモノポールアンテナの放射パターンに大きな違いは見られなかったことから、本研究で作製した低抵抗グラフェン膜はアンテナの電極材料として金属に近い振る舞いをすることがわかった。そしてWheele cap法により評価したグラフェンアンテナの放射効率ηは52.5%であり、その放射効率は参照用のAuアンテナの放射効率に対し約1/2にまで到達していた。 以上本研究では、グラフェンの低抵抗化によってグラフェンアンテナの特性を制御し、電磁界解析によるグラフェンアンテナの設計を行うことができた。また実用的な透明アンテナの電極材料としてのグラフェンの可能性を見出すことができた。
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