研究課題/領域番号 |
19J14665
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
藤田 萌香 福井県立大学, 生物資源学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 植物 / イネ / 病害抵抗性 / プライミング / 植物共生微生物 |
研究実績の概要 |
植物の病害抵抗性の一つであるプライミング機構は、通常時の植物において、PRタンパク質などの防御関連遺伝子の発現を伴わず生育に対して影響を及ぼさない一方で、病原菌感染時の植物において、早くあるいは強く病原菌に対して応答することができるという特徴を持っている。しかしながら、その分子メカニズムに関しては明らかにされていないため、本研究は、細菌エンドファイトの共生によってイネ、シロイヌナズナやトマトに誘導されるプライミング機構に関与するシグナル物質を特定することを目的としている。これまでに、細菌エンドファイトが地際および根部に共生しているイネの葉身では2種の特異的なプライミング関連遺伝子の発現が誘導されていることを明らかにしており、これらの遺伝子の発現を指標として地下部から地上部へのシグナル物質の特定を試みた。シグナル物質の抽出材料としては、Azospirillum sp. B510 株懸濁液を処理してプライミングを誘導したイネの葉鞘部分を用いた。溶媒抽出および陰イオンカラム交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーにより活性成分の分離および精製を行った。その結果、プライミングを誘導するシグナル物質候補化合物は、60℃程度までの熱に安定な酸性物質であることが明らかになった。また、精製条件が異なる2種の画分に活性を見出した。いずれの精製画分をイネに処理した場合にも、イネいもち病菌に対する病害抵抗性が誘導されることが確認された。以上の結果より、プライミングを誘導するシグナル物質を含む精製画分の取得に成功しており、また、シグナル物質が複数存在するという想定外の可能性も見出した。 以上の成果は、国際学会、国内学会で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は、おおむね順調に進展している。理由及び具体的な研究の成果は下記の通りである。 本年度では、細菌エンドファイトの共生によるプライミング機構の誘導に関与するシグナル物質の特定を目指し、イネ葉鞘抽出液からプライミング関連遺伝子の誘導活性を有する画分を精製し、さらにイネいもち病に対する病害抵抗性誘導活性の解析を行った。本年度の目標であったシグナル物質の単離には至っていないものの、候補物質を含む画分について十分に限定することができ、また、複数のシグナル物質が存在する可能性という想定外の結果を得ている。 また、精製した画分を処理したイネにおける病害抵抗性の解析を行い、その病害抵抗性誘導活性を示すことができたため、目標を達成できたと考えている。 現在までに得られた成果については、国内外で開催された5件(うち1件は英語発表)の学会に参加し、積極的に発表を行うと同時に、情報収集に務めた。
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今後の研究の推進方策 |
イネ葉鞘精製画分から精製中であるプライミング関連遺伝子を発現誘導するシグナル物質の特定を行う。シグナル物質の精製は、溶媒抽出および陰イオンカラム交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーを用いて進めているが、更にLC/MS/MS分析によりシグナル物質候補を絞り込み、特定する。シグナル物質がイネだけでなくシロイヌナズナまたはトマトに対してもプライミング誘導活性を持つかを病害抵抗性や遺伝子発現解析により検討し、植物種に依らない共通のメカニズムであるか検証する。また、 イネ、シロイヌナズナ、トマトにおいて、細菌エンドファイトまたは菌根菌によってプライミングを誘導した際にこのシグナル物質が生成して機能しているかを、質量分析により解析する。これによって、植物共生微生物-宿主植物間の相互作用に共通するメカニズムであるか検証を行う。また、上記の研究が順調に進んだ場合には、さらに、イネまたはシロイヌナズナを用いて、シグナル物質により誘導されるプライミング機構関連遺伝子をマイクロアレイ解析により見出す。
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