手指の巧緻運動は、ヒトや高次の非ヒト霊長類に特有の運動であり、日常生活を送る上で極めて重要である。この運動は皮質脊髄路(CST)によって制御されているため、脊髄損傷などによりCSTが損傷を受けると運動機能が著しく低下する。特に巧緻運動の回復は困難であり、障害が残存することが多い。ヒトと類似したCSTを有するマカクザルを用いた先行研究では、脊髄損傷後の運動機能回復には、一次運動野由来のCSTニューロンの脊髄レベルでの神経回路再編成が重要であることを報告している。しかし、脊髄損傷後のCSTニューロンの大脳皮質レベルにおける神経可塑性については不明な点が多い。そこで、本研究では、脊髄損傷サルモデルを用いて、手指の運動機能変化と運動関連領野に分布するCSTニューロンの可塑的変化の相関を明らかにすることを目的とした。行動学的評価には、巧緻性を定量的に評価できるreaching/grasping taskを用いた。CSTニューロンの可塑的変化は、ゴルジ染色法を用いて樹状突起と樹状突起スパインの形態に注目して解析を行った。樹状突起については、Sholl analysisを用い形態の複雑さを解析し、スパインについては、数をカウントして、局在分布を解析するとともに、形状を5種類(filopodia、thin、stubby、mushroom、branched types)に分類し、成熟度合いを判定した。その結果、損傷後急性期ではすべての運動関連領野で樹状突起およびスパインの複雑さは急激に低下するが、回復期では運動機能回復に伴い、正常な形態の再獲得が惹起されることが明らかになった。また、興味深いことに、このような可塑的変化の程度は運動関連領野によって異なっていた。以上の結果は、脊髄損傷後の手指の運動機能変化と運動関連領野に分布するCSTニューロンの可塑的変化の相関を明らかにしたものである。
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