研究課題/領域番号 |
19J14724
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北木 孝明 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 数値計算 / 降着円盤 / ブラックホール |
研究実績の概要 |
超臨界降着状態にある超高光度X線源や狭輝線セイファート1型銀河では、スペクトルの状態遷移や軟X線超過といった特徴が観測されてきたが未解明である。本研究の目的は、これらの起源を明らかにし、超臨界降着流の正確な全体像を築く事である。具体的には、先行研究より10-100倍程度大きな空間領域で、アウトフローを含めた超臨界降着円盤を数値計算で解き、スペクトルを求める。特に光子の辿った軌道を解析することで、スペクトル成分と放射領域の対応を明確にする。 当該年度では主に(1)超高光度X線源を対象にした超臨界降着流の2次元輻射流体計算と3次元輻射輸送計算を行い、軟X線成分が構成される過程を明らかにする。(2)これらの結果からスペクトルのフィッティングテーブルを作成する。共同研究者と共に、観測へ応用し、通常のブラックホール連星と超高光度X線源の違いを探る。という計画であった。 当該年度では、2次元輻射流体計算コードの開発が中心となった。当初は、因果律を守る特殊相対論的粘性流体力学(Israel & Stewart 1976)を用いた最新の粘性解法を利用する予定であった。計画通りに実装は行い、テスト問題に関しても問題なく解くことができた。しかし、本研究の降着円盤に関する計算を行った際、数値的に安定せず円盤が爆発してしまうという予期せぬ問題が発生した。原因を調査し様々な処方箋を施したが、もともとIsrael & Stewart理論は粘性項を放物型から双曲型の方程式へと変えているため不安定な計算となりやすいと判断し、本研究遂行のため既存の放物型の計算法に変更した。ただし、supertime stepping法という新しい計算手法で実装したため、放物型方程式であっても新規性のある計算コードの開発を実施できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の進捗状況は少し遅れていると私は評価する。理由は端的に言うと、本研究を実施するために必須の計算コードの開発が遅れたためである。当該年度では、2次元輻射流体計算コードの開発が中心となった。当初は、因果律を守る特殊相対論的粘性流体力学(Israel & Stewart 1976)を用いた最新の粘性解法を利用する予定であった。計画通りに実装は行い、テスト問題に関しても問題なく解くことができた。しかし、本研究の降着円盤に関する計算を行った際、数値的に安定せず円盤が爆発してしまうという予期せぬ問題が発生した。原因を調査し様々な処方箋を施したが、もともとIsrael&Stewart理論は粘性項を放物型から双曲型の方程式へと変えているため不安定な計算となりやすいと判断し、本研究遂行のため既存の放物型の計算法に変更した。ただし、supertime stepping法という新しい計算手法を実装したため、放物型方程式であっても新規性のある計算コードの開発を実施できた。また、輻射の移流項に関してはHLL法を実装する際に先行研究にあるように、光学的に厚い空間領域では拡散速度を特性速度として採用する処方箋をした。しかし、ガリレイ変換を行うことでHLL法で特性速度が一方向だけしか残らず安定に解けないことを発見した。そのため拡散速度を実験室系の値として扱うことで、輻射の特性速度を正しく扱える技法を見出したのは重要な成果である。さらにコンプトン散乱に関しては、非相対論の1次元空間で近似解を先に求め、それを初期条件として4次元空間で真の解を探すという安定に解く方法を見出した。これは先行研究で述べられていない新たな発見である。以上の計算コード開発によりコード自体は完成したと考えられ、現在は計算の実行段階に移行した。今後は当初の予定通りに計算結果を解析し、議論をする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、開発したコードを利用して計算を行いその結果を解析する。特に超高光度X線源と狭輝線セイファート1型銀河を対象にした計算を実施し、外側円盤の光子がアウトフローとコンプトン散乱をし、軟X線成分が構成される過程を明らかにする。そしてこれらの結果を論文にまとめ投稿する。また、本来は研究成果を精力的に海外の国際会議で発表する予定であったが研究進捗が遅れているため、当初の予定より国内会議、国際会議での発表回数が大幅に減る方向になる。さらに、現状コロナウイルスの収束が見込めないため、国内会議、国際会議での発表そのものが行えない可能性もある。
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