研究課題/領域番号 |
19J14746
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富田 啓介 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | モミラクトン / ケミカルゲノミクス / 結合タンパク質 / 分裂酵母 |
研究実績の概要 |
イネが生産する特化代謝産物モミラクトンの生物活性と耐性の分子メカニズム解明を目指し、①酵母を用いた化学遺伝学的手法によるモミラクトン標的パスウェイと関連因子の探索、および②ケミカルプローブを用いた生化学的手法によるモミラクトン結合タンパク質の探索を行った。各項目の研究実績を以下に示す。 ①に関して、分裂酵母破壊株ライブラリーからモミラクトン感受性が変化する株のスクリーニングを行い、破壊することでモミラクトン感受性が変化した遺伝子群において濃縮されるパスウェイを解析した。有意に濃縮されるものは見出されなかったものの、転写や翻訳、過酸化水素への感受性に関与する遺伝子が複数含まれていた。このことから、モミラクトンが酸化ストレスやそのシグナル伝達に影響を与えている可能性がある。さらに、昨年度までに取得済みのモミラクトン耐性EMS変異株において変異が生じていた遺伝子を複数同定した。その内、非必須遺伝子について、破壊株のモミラクトンB感受性を評価した。その結果、一部の破壊株においてモミラクトンB耐性が確認された。現在、モミラクトンの作用機序とそれら遺伝子との関係について更なる解析を進めている。今後は、必須遺伝子に生じていた変異についても解析を進める。 ②に関して、昨年度作製済みの、モミラクトンBを官能基非依存的に固定したビーズと分裂酵母ライセートを用いてプルダウンアッセイを行い、ビーズに結合するタンパク質Obr1を同定した。しかし、プルダウンアッセイ時にモミラクトンBをコンペティターとして加えてもバンドが減衰せず、また、obr1破壊株のモミラクトンB感受性は野生型株と変わらなかったことから、Obr1はモミラクトンの作用メカニズムに関与しないタンパク質である可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、分裂酵母破壊株ライブラリーを用いてスクリーニングを行い、モミラクトン感受性に関与する遺伝子群を同定したが、それらにおいて有意に濃縮されるパスウェイは見出されなかった。しかしクロマチンリモデリングに関与する因子やリボソームのサブユニット、過酸化水素への感受性に関与する遺伝子が若干濃縮されていた。このことから、モミラクトンの作用メカニズムが転写、翻訳や酸化ストレスに関係している可能性が考えられ、今後、その可能性を裏付ける種々の解析を行うことで、モミラクトンの作用機序解明に迫る知見が得られることが期待出来る。 また、昨年度までに得られていたモミラクトン耐性EMS変異株において変異が生じている遺伝子を複数見出した。その内一部の破壊株においてモミラクトンB耐性が確認された。中でも、ATP合成酵素サブユニットをコードする遺伝子の破壊株が顕著に耐性を示した。少なくとも分裂酵母においては、ATP合成酵素の変異体が耐性を示す薬剤の報告は殆どなく、モミラクトンの作用機序とATP合成酵素の関係について更なる解析を進めることで、ユニークな作用メカニズムが見出されることが期待できる。 また、モミラクトンBを官能基非依存的に固定したビーズと分裂酵母ライセートを用いてプルダウンアッセイを行い、ビーズに結合するタンパク質を同定した。しかし、その後の解析から、モミラクトンの作用メカニズムに関与しないタンパク質である可能性が考えられた。そこで、新たな試みとしてモミラクトンのビオチン化プローブ及び蛍光プローブの作製を行うこととし、種々のモミラクトン類縁体の合成と活性の評価を進めている。これにより、当初の計画にはないモミラクトンの構造活性相関や、細胞内局在に関する情報も得ることが出来ると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、昨年度に行った網羅的なスクリーニングから見出された、モミラクトンの作用機序への関与が疑われるいくつかの細胞内プロセスに注目し、それらに関与する遺伝子の変異株についてモミラクトン感受性を調べる、またはそれらのプロセスに対するモミラクトンの影響を各種生化学的なアッセイによって解析することで作用メカニズムへの関与の裏付けを行う。 また、モミラクトン誘導体を合成し、分裂酵母に対する生育阻害活性を測定することで構造活性相関に関する情報を得る。活性を保持した誘導体が作製出来れば、ビオチン化モミラクトンを作製し、結合タンパク質の探索を再度行う。また、ビオチン化と同様に蛍光団を導入することでモミラクトン蛍光ラベル体の合成を行い、その細胞内局在を解析することも計画している。分裂酵母においては、全タンパク質の細胞内局在が網羅的に調べられていることから、モミラクトンBの局在箇所が分かればその標的を絞り込むことも可能となる。 最後に、ここまでの実験で明らかとなったモミラクトンの作用機序を足がかりに、植物に対する作用について検証を進める。まずは、分裂酵母におけるモミラクトンターゲット候補分子の植物におけるホモログを探索し、相同性比較および相互作用解析から、モミラクトンの作用機序の種を超えた保存性を評価する。また、イネ等のモミラクトン耐性植物についても同様の解析を行い、自己耐性機構と作用機序との関連を明らかにする。また、使用量に応じ適宜イネ籾殻からモミラクトンの抽出と精製を行う。
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