アルツハイマー病(AD)の発症原因として、脳内にアミロイドβ(Aβ)と呼ばれるペプチドが凝集・蓄積することが挙げられる。そのため、ADの治療・予防戦略として、Aβの凝集を抑制すること、または凝集したAβを代謝に導くことが有効であると考えられる。 そこで我々は、酸素修飾を受けたAβの凝集性が低いことに着目した。そして、人工的にAβ特異的に酸素修飾を行う「光酸素化」を考案した。光酸素化とは、光によって活性化される低分子化合物(光酸素化触媒)を用いて、凝集Aβ特異的に酸素修飾を行うものである。本方法により、合成Aβに光酸素化を行ったところ、凝集Aβのさらなる凝集の抑制が可能となった。また、脳内にAβが十分に蓄積したADモデルマウスに対して光酸素化を行ったところ、凝集Aβ量の低下が確認された。この結果、光酸素化によるAβの代謝亢進が示唆され、その代謝亢進メカニズムの解明を目的に研究を行った。 光酸素化Aβの代謝亢進メカニズムを明らかにするため、脳内免疫担当細胞であるマイクログリアに着目した。マイクログリアは、①Aβを細胞内に取り込んだ後、②細胞内の酵素を用いてAβを分解することが知られている。マウスへのAβ注入実験と、マウス脳内のマイクログリアを欠失させられる薬剤PLX3397、また培養細胞系を使用し、光酸素化Aβの代謝亢進にマイクログリアが関与するかを検討した。結果として、光酸素化は脳内免疫担当細胞であるマイクログリアによるAβの取り込み速度に影響は与えないが、取り込まれた後の細胞内分解を促進する可能性、加えてその分解亢進にはリソソーム分解経路が関与することが示唆された。 以上より、光酸素化Aβの代謝亢進メカニズムの一部を解明することができた。
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