フラーレンC60からC-C結合開裂を含む3工程で誘導化することのできる開口フラーレン1は開口部の官能基配列に由来するキラリティを有する。 実際に1が互いにエナンチオマーの関係であるかを確認する目的でそれぞれのCDスペクトルを測定したところ、両化合物がエナンチオマーであることが分かった。京都大学 村田靖次郎教授らは開口フラーレン内部に水分子や酸素分子を内包させることで、開口フラーレンの性質変化や孤立分子の特性に関する研究を報告している。一方、これら分子の不斉合成に関する報告は皆無であり、村田教授らとの共同研究によりキラル開口フラーレンの触媒的不斉合成に着手した。開口フラーレンは連続したアセタール構造を有し、官能基化後のアシル化体やシリル化体は容易に分解した。そこで、アセタール部位の直接的官能基化による生成物の分解を回避する目的で、エチレングリコールの導入を行った。 得られたラセミ体1a及び1bに対し、所属研究室で開発した反応点の遠隔位に不斉要素が存在する触媒2を用いてアシル化を検討した。ラセミ体1aを基質とした場合、アシル化体は37% 収率、42% eeで、回収原料が44% 収率、30% eeで得られるに留まり、効率的なKRは進行しなかった。一方、ラセミ体1bを用いた場合はアシル化体がは36% 収率、62% eeで、回収原料が26% 収率、75% eeで得られた。今回用いた開口フラーレン誘導体は反応点である第一級水酸基と分子不斉が互いに離れた位置に存在しているにも関わらず、s値9.3でKRが進行した。本法は開口フラーレンに対する初めての触媒的速度論的光学分割の報告である。
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