研究課題
本研究は、魚類インターロイキン(IL-) 17A/F1及びその受容体であるIL-17受容体A (RA)を介した経路の腸内細菌叢を制御する上での重要性およびその制御機構を明らかとすることを目的としている。本研究では、メダカをモデル生物として解析に用いた。始めにCab系統メダカにおけるIL-17A/F1及びIL-17RA遺伝子の同定を行った。その結果、Cab系統メダカは、他の近交系メダカにおけるIL-17A/F1には見られない、9塩基(ATGATGATG)のメチオニンリピートが見られた。次に受容体であるIL-17RA遺伝子の配列決定を行った。その結果、魚類では特異的に哺乳類のIL-17RA遺伝子のホモログ遺伝子(IL-17RA1)の他に、もう一つのIL-17RA遺伝子(IL-17RA2)が異なる染色体上にコードされていることを明らかとし、共に配列を決定した。また、ゲノム編集技術CRISPR-Cas9を用いてIL-17A/F1遺伝子変異メダカを作製した。変異メダカ腸管ではトランスフェリンやリゾチームといった抗菌分子、補体C1q、炎症性サイトカインIL-1βといった免疫関連遺伝子の有意な発現減少が見られた。さらに興味深いことに、ペプチターゼ/トリプシン(Carboxypeptidase, Elastase, etc...)をはじめとした消化酵素遺伝子群の顕著な発現減少が同時に見られた。次に、腸管内容物を用いた16s細菌叢メタゲノム解析を行った。その結果、変異メダカの腸内細菌叢は、野生型とは有意に異なる多様性を示した。変異メダカでは、検出される菌種自体が増加しており、その中でも科レベルにおいてはエロモナス科細菌が有意に増加していた。さらに種レベルでは、食中毒菌Plesiomonas shigelloidesが極端に増加しており、qPCRを用いた解析においても同様の結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
IL-17A/F1遺伝子変異メダカの腸管における野生型メダカとの表現型の比較による解析は、順調に推移している。特に実際に変異メダカ腸管においてトランスクリプトーム解析を行い、これまでに明らかとされでいなかった腸管における新規のIL-17A/F1によって誘導される遺伝子群を特定した。このIL-17A/F1によって誘導される遺伝子群の特定は、研究着想当初に掲げた第一到達目標であり、これを達成した。さらに、これら誘導される遺伝子群の発現量のKOによる減弱が、実際に腸内フローラに影響を及ぼしていることを明らかとした。さらに広域にIL-17の腸管における機能性を探索するために、ILー17受容体A (RA)に着目した。ゲノムデータを探索したところIL-17RAは、魚類において哺乳類IL-17RAのホモログにあたるIL-17RA1の他に魚類特異的にもう一つのIL-17RA遺伝子、IL-17RA2遺伝子が異なる染色体にコードされていることを明らかとした。一方で、IL-17RA2の朝刊における遺伝子発現量は極めて低く、IL-17RA1が腸管IL-17シグナリングにおけるより主要な受容体であることが示唆された。
今後は、IL-17RA1遺伝子変異メダカ系統の作製を行い、これを利用した解析に移行する。作製したIL-17RA1遺伝子変異メダカ腸管において、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析および細菌叢メタゲノム解析を行い、KOによる下流遺伝子群の発現量および細菌叢への影響を網羅的に探索する。さらに解析においては、腸管の前半部と後半部に分けて行うことでこの腸管の各部位における機能性の違いについも着目して研究を進捗させる。また、これらIL-17A/F1およびIL-17RA1を介したシグナル 下流遺伝子と考えられる遺伝子群については、腸管組織における局在をIL-17の局在と比較し、この遺伝子局在を明らかとする。さらに、現在メダカ腸管から乳酸菌を単離しており、これら乳酸菌に対するIL-17関連遺伝子群の発現応答と実際の乳酸菌のプロバイオ効果を比較することで、IL-17をバイオマーカーとして利用したプロバイオティクス効能評価系の構築を目指す。
すべて 2020
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Frontiers in immunology
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Comparative Biochemistry and Physiology Part - B: Biochemistry and Molecular Biology
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doi: 10.1016/j.cbpb.2019.110386