アルツハイマー病は認知症をきたす疾患の中で最も患者数が多い疾患である。近年、アルツハイマー病の発症や進行において、アルツハイマー病感受性遺伝子TREM2の発現量の変化によるミクログリアの機能制御が大きな寄与を果たしていることが注目されているが、TREM2の発現量制御機序や制御因子に関する知見は不足している。本研究課題はこれらを明らかにすることを目的とした研究である。TREM2発現制御因子の手掛かりとして、我々の以前の知見であるTREM2 exon 3の選択的スプライシングを介したTREM2発現調節機構に基づき、研究を行った。Exon 3の選択的スプライシング制御因子の探索のためにRNA結合タンパク質によるexon 3のスプライシングパターンを検討した結果、複数のRNA結合タンパク質がexon 3のスプライシング制御に関与することが分かった。その中でもCELF1とCELF2がexon 3のスプライシングを最も大きく変化させた。興味深いことにCELF1及びCELF2はアルツハイマー病関連遺伝子として報告されており、本研究ではこの2つのRNA結合タンパク質をexon 3のスプライシング制御候補因子とした。特に、CELF2はTREM2 exon 3のスキップを促進させ、TREM2タンパク質の発現量を減少させることが分かった。また、マウスTrem2 exon 3は選択的スプライシングが生じず、CELF1・CELF2によるexon 3のスキップも生じなかった。これらに加え、exon 3のスキップが新規の分泌型TREM2アイソフォームの産生に繋がることが示唆された。本研究課題では、CELF2以外にも複数の制御候補因子を得ることができた。これらが実際にミクログリアの機能をどの程度調節するのか、また、新規の分泌型TREM2アイソフォームの産生に関与するのかは今後の検討課題である。
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