研究課題/領域番号 |
19J15035
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
成清 颯斗 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | かご型シルセスキオキサン / 蛍光センサー / エキシマー / 水素結合 / アニオン / 有機無機ハイブリッド |
研究実績の概要 |
有機成分のデザイン性と無機成分の高い耐久性を兼ね備えた分子として、かご型シルセスキオキサン(POSS)が注目されている。POSSはSi-O 結合を骨格とした剛直な立方体の各頂点に有機側鎖を有する分子である。その剛直な三次元構造に由来して高い検出物補足能を示すことから、発光団を修飾することで蛍光センサーとしての応用が期待される。しかし、骨格の剛直性に起因して刺激応答性が発現した報告は少なく、蛍光センサーへの応用のためには新たな分子設計指針の確立が必要である。本研究では、剛直なPOSSと発光団を柔軟な側鎖で連結することで、刺激応答性の発現と新奇蛍光センサーの開発を検討する。本研究員は、現在までに、剛直なPOSSと柔軟な側鎖を組み合わせることで、検出物の捕捉能と刺激応答性を両立し、種々の蛍光センサーの創出に成功してきた。 これらの背景を踏まえ、本年度は、側鎖間の高効率な分子内相互作用を積極的に利用することを着想し、種々のアニオンと結合能を示す水素結合ドナー性基を集積したPOSSの合成と蛍光センサーへの応用に取り組んだ。これまでの研究成果から示されたPOSS1分子内の側鎖は接近しやすさに着目し、複数の水素結合ドナー性基による共同的効果による強いアニオン結合能の付与を狙った。実際に合成したPOSS誘導体は硫酸イオンと結合することが示され、側鎖と同一構造を有するモデル化合物と比較して高い結合能を有することが明らかとなった。さらに、発光色素を修飾したPOSS誘導体では硫酸イオンとの結合に伴い、発光色の変化が観測され、蛍光センサーとして利用できることが示された。 本研究の成果は、有害のアニオン種を高感度に検出するための蛍光センサーとして利用できることが期待される。また、水素結合ドナー性基を他種の化学種と結合するリガンドに変えることで様々な検出対象に適用できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度において行われた研究は、当初計画した研究の基盤となる分子設計の検証を行ったもので、その成果は当初の期待を上回るものであるため、研究全体として初期計画以上に進展していると言える。水素結合ドナー性基を集積することで高いアニオン結合能を付与することに成功し、その結合を発光色に影響させることができた。本研究で合成した分子は希薄溶液条件においても高い結合能を有することから、高感度な蛍光センサーへの展開が期待できる。また、今回得られた知見をもとに、リガンドや側鎖を設計することで当初の研究方針である分子サイズの識別や多成分同時検出を可能にする蛍光センサーを創成できると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究によって得られた知見を元に、以下のような計画によって研究を進めていく。 (1)分子サイズの識別を可能とするPOSS固体蛍光センサーの開発 現在までの予備実験において、2級アミンを側鎖に導入したピレン修飾POSSが固体状態において高い発光特性と酸性ガスへの応答を示すことを確認した。2020年度では、側鎖長を系統的に変化させた発光性POSS誘導体を合成し、酸性ガスの分子サイズの識別が可能かどうか検証する。また、刺激応答性のメカニズムについて、NMRやFT-IRから化学的な状態、電子顕微鏡やX線分析から集合状態について評価することで詳細なメカニズムについて明らかにする。 (2)2成分同時検出を可能とするPOSS蛍光センサーの開発 現在までの研究結果から、柔軟な側鎖を有するPOSSの側鎖にリガンドを導入することで、共同効果による高い結合能を付与できることが示された。2020年度では、側鎖に2種のリガンドを導入したPOSS誘導体を合成し、検出物との応答挙動について評価する。光学測定とNMRから各金属との結合定数について評価し、刺激応答性について詳細に調査する。 これらの研究結果について取りまとめ、学会発表および原著論文の投稿を行う。
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